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第17話
しおりを挟む辺りが薄暗くなった頃、いよいよ祭が始まった。クムザと一緒に集会場へ到着したジェイクは、「ほう」と息を吐いた。鮮やかな青い旗が立ちならび、白い花が飾りつけてある棚の上には、酒や米、塩や果物が置かれている。広場の真ん中に茣蓙が敷かれ、男女による笛太鼓の演奏が流れていた。祭に参加する島民は下半身を麻布で隠しているため、目のやり場に悩まずに済んだ。
「ジェイクリッドよ!」
離れた場所から、ラミルダが手招きしている。クムザに背中を押され、ひとりで歩み寄った。ちなみに、ジェイクの恰好は、ホワイトシャツに紺色のズボンを着まわしている。今のところ、それしか服がなかった。ロンファから返却されなければ、パンツ1枚で過ごしていたかもしれない。そう思った瞬間、背筋がゾッとした。
「ラミルダ長老」
「よく来たな。化身であることを認めたそうじゃないか。あたいは感動したぞ! ジェイクリッドが島にいれば、必ず水竜があらわれる。その時は、よろしくたのむぞ」
何をたのまれたのか不明だが、「ああ」といって話を合わせた。ふと顔をあげると、女衆から好奇な視線を浴びていた。青い髪だけでなく、島民の多くは背丈が低いため、長身のジェイクは目立つ存在だった。席につくと料理が運ばれてきた。
「さあ、まずは好きなだけ食べよ。気になる娘がいたら、囲わせてやるぞ!」
「けっこうだ」
ジェイクが即座に断ると、ラミルダは「ぎゃーっはっは」と下品な声で笑った。
「水竜の化身に抱かれると、長寿の恩恵を受けるという。その気になれば、いつでも声をかけろ。向こうに寝床も用意してあるからな」
云われて見れば、広場の隅に小屋が建てられている。記憶喪失という特異な状況下でも身体作用は正常につき、快楽を優先することは可能だった。しかし、その気など起こらないジェイクは、こっそり呆れた。
祭の最後にラミルダから中央の台座に立つよう云われ、簡単な自己紹介をした。
「俺は、ジェイクリッドという。使命を果たせるよう尽力するつもりだが、過度な崇拝は必要ない。しばらく世話になる」
海軍大佐のジェイクを〈水竜の化身〉と信じて疑わない島民たちは、ワッと盛大な拍手を送った。
✓つづく
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