青竜のたてがみ

み馬

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第16話

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 プルプァ少年と長閑のどかな島を散策するジェイクは、ひどく穏やかな気分になった。このまま、ファブロス島の住人として、のんびり暮らすのも悪くないと、いくらか投げやりな思考におよぶ。しかし、ガレオス帝国では、ルーベレット少佐とシーナが、ジェイクの無事を信じて動きだしていた。

 ザァーンと浜辺はまべに波打つ音は、耳に小気味こぎみよく響いてくる。

「あそこに見えるのがおれたちの住居で、向こうのほうに集会場があって、それから、海のほうを見てください! あの高い岩より先は水深がわからないので、泳ぐときは目印にしてくださいね!」
 
 プルプァが、元気にしゃべっている。島での暮らしぶりは説明など不要なくらい一目瞭然いちもくりょうぜんだが、よく手入れがされた景観を見るかぎり、電気やガスがなくとも、不便さは感じられなかった。役割も明確めいかくで、男衆は漁や狩りで食材を確保し、女衆は稲作農業や織物などをして、それぞれ収穫を分け合い、年間を通じて安定した生活を送っていた。つまり、金銭のやりとりは、いっさい発生しない。かつての長老は交易こうえきに乗りだしたが、大海を渡る造船技術が追いつかず、失策に終わっている。また、ファブロス島の西側には活火山かっかざんがあり、小規模の噴火をくりかえしていた。

「……ジェイクさんって、本当に海底から陸にあがったんですか?」

 プルプァの突飛とっぴな発言に、ジェイクは「秘密ひみつだ」と云って、適当にはぐらかした。記憶が戻らないうちは、何も打ち明けることはできない。少年は「う~、気になる~っ」と、肩をふるわせた。あまり追及されては面倒につき、病院を手伝う理由をたずねると、プルプァは、パッと明るい表情になった。

「おれ、いつか医者になりたいんだ! クムザのおっちゃんに子どもはいないし、誰かがあの病院をがなきゃ、みんな困るだろ? だから、おれが医者になって、病気やけがを治してやるんだ!」

 敬語を忘れて力説するプルプァは、漁や狩りといった職業は、性に合わないと付けくわえた。適材適所てきざいてきしょというように、ふさわしい仕事につくことは、その人物の特性をかすことができる。ジェイクは内心、プルプァの将来を応援した。

「青い花が咲いてる場所があるけど、そろそろ戻らないと、祭に間に合わないかな。う~ん、残念! ジェイクさんに見せたかったなぁ……」

 なにやらくやしがる少年を横目に、ジェイクは病院へ引き返した。


✓つづく
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