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第15話
しおりを挟む遠くで、笛太鼓の音が聞こえる。島の集会場では、ジェイクをもてなす準備が始まっていた。昨日の雨はやみ、今朝は、よく晴れている。朝飯を終えたジェイクは、ベッドに深く腰をかけ、伝承について思考をめぐらせた。
〈水竜〉とは、あくまで想像上の霊獣で、天から舞い降りる来訪神だという。水を司り、生命力の象徴とされ、ふしぎな力で災異から護るといわれている。また、水竜の姿を見た者は、あまりの神々しさと迫力に、精神を病むとされ、人の形をとってあらわれ、数百年にわたり島に鎮座し、平和を見届けるらしい。〈水竜の化身〉とは、青い髪をした成人男性で、夜の海より陸にあがるとされ、単一神につき、類型の眷属は存在しない。化身の役割は、あくまで水竜の補佐役にすぎないが、天意により化身が先に選ばれ、次に水竜が男の前にあらわれるという。つまり、2体そろうまで、守護神としては不完全であり、力不足だという。
(……髪が青いというだけで、この俺が化身とまちがわれるとはな。……ロンファこそ、水竜の末裔ではないのか?)
水色の髪と白い肌は、人離れした雰囲気を漂わせている。2体そろって初めて意味のある存在という点と、ロンファが性交渉にこだわる理由を合致させてみた。
(あいつを抱けば、何か変わるのか? 水竜にとって化身とは、力の源なのだろうが、精原細胞を求める理由はなんだ? さすがに、妊娠するなんてことは、あり得ないだろうが……)
ジェイクは、額を指で支えながら考え込む。ロンファの名は、島民の前で口にしてはいけない気がした。ただでさえ、人目を避けて立入禁止の場所で暮らしている。ジェイクは、今もひとりで洞窟に残るロンファを思い浮かべ、胸の奥がズキッ、痛むのを感じた。
(いつからだ……。いったいあいつは、いつから暗い洞窟にひとりで……)
ふいに、細い肩を抱きしめたい衝動に駆られた。祭のあと、洞窟へ行けるかどうか、定かではない。民族伝承について考えていたはずが、青年のことばかり気にするジェイクは、ハッと我に返る。
「ジェイクさーん、いますかー!?」
突然、プルプァが庭先から大声で叫ぶ。ジェイクは病室の窓を開け、「なんだ」と応じた。朝の澄んだ風が、全身をとおり抜ける。
「ちょっと海岸までいっしょに行こうぜ! あっ、やばっ。えっと、行きませんか?」
ジェイクが〈水竜の化身〉を名乗ったことで、プルプァの接し方が、よそよそしくなっている。その場の流れとはいえ、ジェイクなりに、うしろめたさを感じた。祭の時刻まで余裕があるため、「今、そっちへ行く」と返事をすると、短靴を履いて外にでた。
「えへへっ。おはようございます! いい天気ですね。さあ、行きましょう。おれがファブロス島を案内します!」
「そうか。よろしくたのむ」
「はい、おまかせください!!」
プルプァは、胸を張って歩きだす。祭仕様なのか、今朝は腰に麻布を巻いており、藁靴を履いていた。いくら子どもとはいえ、素っ裸でいられるより、だいぶマシに見えた。
✓つづく
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