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第10話
しおりを挟む名乗った覚えのない青年だが、ジェイクからロンファと呼ばれても否定しなかった。クムザいわく〈ロンファンの幻〉説から引用したジェイクだが、それは数百年以上も昔の話につき、ロンファとは別人である。しかも、青年の容姿は10代半ばほどで、実年齢よりだいぶ若く見えた。不老不死という言葉を思い浮かべたジェイクは、あまりにもバカらしくて「ククッ」と、笑みがこぼれた。
「さあ、こたえろ。俺の上衣を返さなかったわけを云え」
いくらか語気を強めたジェイクの表情に途惑うロンファは、自分の胸もとに両手を添えると、弱々しい声で会話に応じた。
「わ、わからない……」
「わからないだと? いい加減なことを云うな。海で倒れていた俺を発見して、洞窟まで運び込んだのだろうが。ちがうのか?」
「……ちがわない……」
「ならば、その時の状況を詳しく説明しろ。どうにも、記憶が抜け落ちている」
「……その……時の」
「ああ。なんでもいいから教えてくれ」
「し……」
「し?」
「死んでた……」
「おい。さすがにそれはないだろう。見てのとおり、俺は生きているぞ」
「……あ、……ちがう。……死んで……しまいそうだったから……、ぼくが……」
「おまえが助けたんだな、この俺を」
ロンファの言葉づかいは焦れったい。ジェイクのほうから先に結論づけると、青年は、コクッと小さくうなずいた。
「それで、なぜあんな真似をする必要があった?」
「……あんな真似……って」
「しただろう、俺に」
壁ぎわに追いつめられたロンファは、どう釈明すべきか悩んでしまい、沈黙した。ふたりはしばらく無言で見つめ合っていたが、返答が待ちきれなくなったジェイクは、青年の腕を引き寄せた。
「……んっ」
ジェイクから接吻を受けたロンファは、ビクッと、肩をふるわせた。
「どうした? 俺とは、これが初めてではないだろう」
「……え」
「おまえは、気を失っている俺に接吻をしたはずだ。その理由を説明してくれないか」
「……そ、蘇生するため」
「そうか。では、やはり俺はいちど死んだようだな」
「……死んでない。ちゃんと生きてるよ」
「ああ、おかげでピンピンしてるさ。こっちの健康も異常なしだ」
「……え、あっ」
シャツの上からロンファの下半身をさぐり、股のあいだへ指を這わせると、男性器へ直に触れる。指の感触だけで、ロンファに陰毛がないことがわかった。滑らかでやわらかい質感の温もりを捉えると、ロンファは恥ずかしそうに腰をひねり、ジェイクの腕を、そっと、振りはらった。
「すまん」
と、ジェイクが詫びると、ロンファは、くすッと笑った。相手の性的な行動を非難せず、「へいき」とこたえる。一瞬、“兵器”と“平気”を聞きまちがえたジェイクは、何かを思いだしそうになるが、ロンファの色気に(無自覚で)血迷っていた。
✓つづく
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