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第9話
しおりを挟む二度目の雨は勢いを増して本降りになるため、ロンファのほうからジェイクに手を差しのべた。細い指が、そっと肩に触れる。
「……立って、ぼくに……ついて来て……」
初めて聞くロンファの声は、雨音に掻き消されてしまうほど弱々しいが、ジェイクの耳までしっかり届いた。云われたとおり立ちあがると、甘いにおいは消えていた。頭がグラつく感覚は残されていたが、ロンファは、ふらふら歩くジェイクの速度に合わせ、少しずつ移動した。15分ほどで洞窟に到着する。その時はもう、ふたりともびしょ濡れであった。ジェイクは、水分を吸収して重くなったシャツを脱ぎ、両手でしぼると、ザバーッと、大量の雨水が落ちた。短靴も脱いで裸足になり、ズボンのベルトを外そうとするが、少し離れた場所でロンファがこちらを見ていた。
「……おまえも脱いだらどうだ。風邪引くぞ」
洞窟内の空気は湿っており、ひんやりとしている。鳥肌が立つほどではないが、冷蔵庫のように冷えていた。ロンファの左足から、黒い紐が垂れている。肌に張りついたシャツを気にするようすはなく、さらに奥へと歩いてゆく。ジェイクは濡れたシャツを着こみ、短靴を持ってあとに続いた。
(……なにはともあれ、ロンファに会えたな。おまえには色々と聞きたいことがある。……どこへも逃さんぞ)
華奢な青年につき、ジェイクが力負けする要素は見あたらない。ロンファに対する感情は微妙なところだが、ふたりきりの状況は有効に使うべきである。ピチョーン、ピシャンッと、頭上から水滴が落ちてくる。洞窟の横幅は2メートルほどで、奥行きは50メートル以上あった。ずいぶん深いところまで進んだはずが、視界はぼんやりと明るい。足もとに群生する苔が、微弱な光を放っている。いつの間にか、びしょ濡れだったシャツもズボンも乾いていたが、ジェイクはあまり驚かなかった。不可解な現象より、ロンファの言動に注意がおよぶ。
(……こんな場所で暮らしていれば、不健康にもなりそうだな)
ロンファの日常生活を予想しながら突き当りまで進むと、それなりの空間に水瓶や木造の椅子やテーブル、植物の枝葉と藁で作られた寝床が配置されていた。
「ふん、なるほどな。ここがおまえの秘密基地か。……つまり、この場で最初に俺の面倒をみたというわけだな」
壁ぎわに、ジェイクのものと思われる紺色の上衣が放置されている。見れば、血のついた布切れも散乱していた。ジェイクは、上衣ではなく血で汚れた布切れを拾い、じっ、と眺めた。思うに、何らかの事故によりこの島へ流れついた身ではないかと予想したが、上衣に刺繍された紋章の図案を見ても、帝国海軍の人間である事実は思いだせなかった。だが、ロンファは、上衣だけ病室のジェイクに届けなかった。早速、その理由を本人へ訊ねてみる。
「ロンファ、こたえろ。なぜ俺の上衣が洞窟にある?」
✓つづく
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