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第6話
しおりを挟むラミルダの小屋から病院に戻ったジェイクは、ぎょっとなる。どこからか情報を得た島民たち(全員もちろん素っ裸)が、ひと目でも〈水竜の化身〉を見ようと押し寄せていた。
「あっちを見ろ! クムザと一緒にいるやつの髪、青くないか!?」
「おおっ、本当に〈水竜の化身〉なのか!?」
大股で近づいてくる島民の形相たるや、いくぶん怪奇現象である。疲れぎみのジェイクは、「ああ、そうだ。どうやら俺の正体は化身らしい」と軽はずみな発言をして、島民たちを驚愕させた。すぐさま、ワァーッと、歓喜の声があがる。何をそこまで期待されているのか不明だが、ジェイクは急に眠くなってきた。人波を掻き分けて病室のベッドへ横たわると、ザァーン、ザァーンという、穏やかな波音が聞こえてくる。ジェイクは、そのまま寝息を立て始めた。
波の音が「アーン、アーン」という、人の声に変わる。遠くで、小さな子どもが泣いていた。ジェイクは瞼をとじていたが、視野には青い海が広がっている。これは夢だと思いつつ、全身に浴びる潮風を心地よく受けとめた。股下の風通しが良好なのは、裸身で佇んでいるからである。夢である以上、恥じらう必要はない。ジェイクは、まぶしい太陽に照らされながら、砂浜を歩きだす。アーンアーンと、悲しげに泣く声は、ずっと聞こえていた。歩くたび足裏にまとわりつく砂は、熱いくらいだった。そこでジェイクは、海に入る。パシャッと、波に足首を浸すと、冷たい海水が気持ちよく感じた。地平線の彼方を眺めていると、泣き声がやんだ。
「……ジェイク……さん」
誰かに名を呼ばれた気がして振り向くと、水色の髪の青年が立っていた。捜していた〈ロンファ〉だとすぐに判り、とっさに腕をのばすが、青年に指が届く寸前で夢から醒めた。ベッドの枕もとに、ホワイトシャツと紺色のズボンが置いてあった。床へ視線を落とすと、24センチくらいの足跡が点々と残されている。服を運んできたものは、幽霊ではなさそうだ。
「……あいつが、ロンファがここへ来たのか?」
ジェイクはベッドから抜けでると、身なりを整えた。シャツもズボンも手足の長さに馴染むため、もともと自分が着ていたもの(ロンファに脱がされた服)だと思った。それが帝国海軍の制服であることに、記憶喪失のジェイクは気づかない。ベッドの端に腰をかけ、夢でみたロンファの姿を思い返す。水色の髪はふわふわとして、肩までのびていた。耳の先が少しだけ尖っているように見えたが、細かな特徴は曖昧である。それより、島民の多くは日焼けの多い躰をしていたが、ロンファの全身は異様なほど蒼白かった。
「……あいつ、あんな不健康そうな血色をしやがって、ちゃんと飯を食っているのか?」
ロンファの表情は、どこか淋しげで、潤んだ水色の眼が印象に残ってしまった。島民との外的な差異は明白につき、なにか深い事情があって、洞窟で暮らしている可能性を疑うジェイクは、あれこれ思考をめぐらせるうち、ますます青年への関心が強くなった。
✓つづく
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