青竜のたてがみ

み馬

文字の大きさ
上 下
8 / 43

第6話

しおりを挟む

 ラミルダの小屋から病院に戻ったジェイクは、ぎょっとなる。どこからか情報を得た島民たち(全員もちろん素っ裸)が、ひと目でも〈水竜の化身けしん〉を見ようと押し寄せていた。

「あっちを見ろ! クムザと一緒にいるやつの髪、青くないか!?」
「おおっ、本当に〈水竜の化身〉なのか!?」

 大股で近づいてくる島民の形相ぎょうそうたるや、いくぶん怪奇かいき現象である。疲れぎみのジェイクは、「ああ、そうだ。どうやら俺の正体は化身らしい」とかるはずみな発言をして、島民たちを驚愕させた。すぐさま、ワァーッと、歓喜の声があがる。何をそこまで期待されているのか不明だが、ジェイクは急に眠くなってきた。人波ひとなみき分けて病室のベッドへ横たわると、ザァーン、ザァーンという、穏やかな波音なみおとが聞こえてくる。ジェイクは、そのまま寝息を立て始めた。

 
 波の音が「アーン、アーン」という、人の声に変わる。遠くで、小さな子どもが泣いていた。ジェイクはまぶたをとじていたが、視野には青い海が広がっている。これは夢だと思いつつ、全身に浴びる潮風しおかぜ心地ここちよく受けとめた。股下の風通かぜとおしが良好なのは、裸身はだかで佇んでいるからである。夢である以上、恥じらう必要はない。ジェイクは、まぶしい太陽に照らされながら、砂浜を歩きだす。アーンアーンと、悲しげに泣く声は、ずっと聞こえていた。歩くたび足裏にまとわりつく砂は、熱いくらいだった。そこでジェイクは、海にはいる。パシャッと、波に足首をひたすと、冷たい海水が気持ちよく感じた。地平線の彼方かなたながめていると、泣き声がやんだ。

「……ジェイク……さん」

 誰かに名を呼ばれた気がして振り向くと、水色の髪の青年が立っていた。捜していた〈ロンファ〉だとすぐにわかり、とっさに腕をのばすが、青年に指が届く寸前で夢からめた。ベッドの枕もとに、ホワイトシャツと紺色のズボンが置いてあった。床へ視線を落とすと、24センチくらいの足跡が点々と残されている。服を運んできたものは、幽霊ではなさそうだ。

「……あいつが、ロンファ、、、、がここへ来たのか?」

 ジェイクはベッドから抜けでると、身なりをととのえた。シャツもズボンも手足の長さに馴染むため、もともと自分が着ていたもの(ロンファに脱がされた服)だと思った。それが帝国海軍の制服であることに、記憶喪失のジェイクは気づかない。ベッドの端に腰をかけ、夢でみたロンファの姿を思い返す。水色の髪はふわふわとして、肩までのびていた。耳の先が少しだけとがっているように見えたが、細かな特徴は曖昧あいまいである。それより、島民の多くは日焼けの多いからだをしていたが、ロンファの全身は異様いようなほど蒼白あおじろかった。

「……あいつ、あんな不健康そうな血色をしやがって、ちゃんとめしっているのか?」

 ロンファの表情は、どこかさびしげで、うるんだ水色の眼が印象に残ってしまった。島民との外的な差異は明白めいはくにつき、なにか深い事情があって、洞窟で暮らしている可能性をうたがうジェイクは、あれこれ思考をめぐらせるうち、ますます青年への関心が強くなった。


✓つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

別れのときは沈黙で

六道イオリ/剣崎月
BL
滅びゆく大陸でダンジョン探索を専門にしている冒険者カイネ 特に目的もなく気ままに過ごしていたのだが ある日を境に大陸は戦乱に飲み込まれる ダンジョン探索を生業としているカイネには、何の関係もないこと――そう思っていたのだが 一人のシスターの頼みを聞いたことで 過去の因縁にまつわる厄介ごとに巻き込まれてゆく

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【完結済】星瀬を遡る

tea
BL
光には前世の記憶があった。かつて人魚として、美しい少年に飼われていた、そんな記憶。 車椅子の儚げで美人な高身長お兄さん(その中身は割とガサツ)と彼に恋してしまった少年の紆余曲折。 真面目そうな文体と書き出しのくせして、ー途(いちず)こじらせた男でしか得られない栄養素ってあるよねっ☆て事が言いたかっただけの話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...