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第9部
第155話
しおりを挟むリヒトがことばを発しない理由を考えたとき、ひとつの仮説が浮かんだ亮介は、明るさが弱まってきた光華石を見つめ、微かに目を細めた。新しい石を用意するノネコの目にとまり、「どうかしたのかい」と声をかける。
日が暮れて小屋での夕ご飯をすませた一行は、それぞれくつろいでいた。ノネコが作った野菜団子をパクパク食べて満足したコリスは、ハイロが造った小さなベッドで人間のように頭から掛け布団をかぶり、すっかり熟睡している。小屋の間取りはそれほど広くないが、亮介は専用のひとり部屋をあてがわれ、ハイロもまた、自分用の空間を確保していた。ノネコは居間のソファが定位置である。
(ハイロさん、夜は部屋に閉じこもってるし、コリスくんは寝るのが早いから、僕の話し相手になってくれるのは、ノネコさんくらいなんだよね……)
ふと、キールをなつかしく思うときがある。当たり前のように近くにいた存在につき、今でも喪失感は否めない。ミュオンと異なり、キールの生存を感じとることはできないため、余計に気がかりだった。
「リョウスケくん」
「え?」
「色々なことが起きて、頭がぼんやりする気持ちはわかるけれど、考えても答えがでないときは、いったん、なにもかも忘れてしまうといいよ」
「……ミュオンさんみたいに?」
「そう、まさに、そのとおりさ。ミュオンさんは解放されたんだ。地の精霊いわく、過去の産物であるわが子を、黒蛇の体内から救いだすには、生命の欠片が必要だった。それはひとりで生みだすことはできず、半獣属の協力は必須で、ミュオンさんは見事にやり遂げたのさ。……わかるかい。それは、すばらしい結果なんだ。ミュオンさんこそ、新しく生まれ変わって、自由になれる日がきたんだ。……悲しい別れを、いつまでも覚えていることが、本人のためとはかぎらないだろう? とくに精霊は、複雑な関係性を断ち切るために分化して、常に新鮮な心でいられるのかもしれない」
「でも、それじゃあ、ハイロさんがかわいそうだよ。お似合いのふたりだったのに、子づくりだけして、片方が消えてしまうなんて、やっぱり、残されたほうは悲しいと思う……」
動物社会では、雄が育児に参加しないほうがふつうで、雌の母乳を飲んでいるあいだは、わが子であろうと基本的に関わらない。虫や魚といった生物などを含めて見ても、やはりオスが子育てに関わる種類は少なく、親から子へと習慣や経験を受け継ぐ場合、多くは母親から学んでいる。動物界には複雑な社会があり、半獣属の目線から見ても、生活環境に余裕はなく、日々の暮らしはきびしいものがあった。だが、それでも子孫を残し、生様を継承していく在り方は、自然の摂理である。
太陽の恵みに感謝して、まいにちを懸命に生きる動物たちにとって、密猟や乱獲、生息地の環境を荒らす人間は、憎しみの対象と同時に、自然界への影響は深刻だった。
「きみは人間だから、そんなふうに、感情ばかり先走ってしまうのだろうね」
ノネコは責めるような目で、キョトンと呆ける亮介の顔を見据えた。
★つづく
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