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第9部
第153話
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※性描写あり
溜池の水底に沈んで消えたミュオンは、森じゅうに溢れる水源より、精霊の姿を象る霊力を少しずつ集め、枯渇した泉水を水気で満たした。
『ハァ、ハァッ、……っ!?』
なにかが、股のあいだから体内へ侵入し、ミュオンをあえがせる。『アァッ、ンンッ!』まぶたを開けてはいけないような気がして、ミュオンは腰をふるわせながら、得体の知れない相手による刺激を従順に受け容れた。それは、かつて身に受けた苦痛と快楽の記憶であり、ミュオンにとって知らない感覚ではなかった。
ハイロと子づくりしたさい、半獣属の野蛮な雄性器官を開口部に挿入されたミュオンは、ひどく不快な気分に陥ったが、からだの細胞は快楽にも反応し、不本意ながら悦がってしまう声が洩れた。
『アッ、……ァンッ』
激しく腰を突きあげられたミュオンは、思わず両眼を見ひらいた。すると、ハイロではない人間の男と目があい、一瞬、血の気が引いた。
『ひっ!? あなたは誰ですか!』
遠い昔、恋人であり夫婦となった人間の存在を、ミュオンは覚えていない。ハイロだと思って身を委ねていたが、とたんに恐怖に駆られ、咽喉や膝が痙攣した。人間の男はなにも言わず、ただ、夢中でミュオンとの性交をつづけ、熱い子胤を放流した。
『い、いやーーーっ!!』
ハイロ以外の男に抱かれて妊娠するなど、あり得ない。ミュオンは、交接を解かれた瞬間、バシャッと、すぐさま泉水に浸かり、開口部から流れる精液を指でふりはらった。
『なぜ、こんなことに……、わたしは、……、いったいなにをして……』
すべては過去の産物であり、意識が同化している間に起こる一時的な感覚の共有であったが、生々しい感触につき、ミュオンの頭は混乱した。見知らぬ男と性交し、ハイロに対する罪悪感にとらわれる。
『ち、ちがいます……! これは、夢です。わたしは、あなた以外の者と、こんな真似をするはずが……っ、……ンァッ!?』
性交したばかりだというのに、ミュオンの下腹部は大きく膨らみ、陣痛が始まった。岸辺にいた男に無理やり引きあげられ、草原のうえで出産に備える。股のあいだを男の指が這うと、ミュオンの背筋はゾッとした。
『くっ、うぅっ!』
子宮口がひらき、膜を突き破ってリヒトが産道をおりてくる。激痛に腰が砕けると思ったが、人間の男が「だいじょうぶだ」と声をかけた。それは、やさしくおちついた調子で、どこかなつかしい響きにつき、ミュオンは無意識に肩の力を抜いた。出産に臨むミュオンは必死に息み、人間の男に励まされながら、ひと晩かけてリヒトを誕生させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『……フッ、水の精霊よ。そなたが生みだした最初の泥沼が、どのような末路をたどるのか、じきにすべてが露見するであろう。くり返される負の連鎖をどう断ち切るか、見物だな』
地の精霊ジェミャは、人間と水の精霊の情事を感じとっていた。分化をくり返す性質をもたないジェミャの肉体は光かがやき、恍惚の表情を浮かべる。
『たぐいもない生が、産声をあげる。解放の尖端となるか、大地をにくむか、人間らしさをあざむく象徴よ、あらゆる季節を生きのびて、大地に春を告げる果実となれ』
愛しあうふたりが息絶えても、彼らの血潮が流れる者へ、かがやく花束(生命の欠片)を届ける役目は、ジェミャに託された。
『ミュオン、その身が無実無心と思うなかれ。そなたは、われが見つめる双瞳の先で、淫らに花を散らせたのだ』
ジェミャの表情は険しくなり、この世ならぬ享楽を経験した水の精霊を羨ましく思った。ふたりの愛するわが子が、その希少な身を亡くすまでは──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
★つづく
溜池の水底に沈んで消えたミュオンは、森じゅうに溢れる水源より、精霊の姿を象る霊力を少しずつ集め、枯渇した泉水を水気で満たした。
『ハァ、ハァッ、……っ!?』
なにかが、股のあいだから体内へ侵入し、ミュオンをあえがせる。『アァッ、ンンッ!』まぶたを開けてはいけないような気がして、ミュオンは腰をふるわせながら、得体の知れない相手による刺激を従順に受け容れた。それは、かつて身に受けた苦痛と快楽の記憶であり、ミュオンにとって知らない感覚ではなかった。
ハイロと子づくりしたさい、半獣属の野蛮な雄性器官を開口部に挿入されたミュオンは、ひどく不快な気分に陥ったが、からだの細胞は快楽にも反応し、不本意ながら悦がってしまう声が洩れた。
『アッ、……ァンッ』
激しく腰を突きあげられたミュオンは、思わず両眼を見ひらいた。すると、ハイロではない人間の男と目があい、一瞬、血の気が引いた。
『ひっ!? あなたは誰ですか!』
遠い昔、恋人であり夫婦となった人間の存在を、ミュオンは覚えていない。ハイロだと思って身を委ねていたが、とたんに恐怖に駆られ、咽喉や膝が痙攣した。人間の男はなにも言わず、ただ、夢中でミュオンとの性交をつづけ、熱い子胤を放流した。
『い、いやーーーっ!!』
ハイロ以外の男に抱かれて妊娠するなど、あり得ない。ミュオンは、交接を解かれた瞬間、バシャッと、すぐさま泉水に浸かり、開口部から流れる精液を指でふりはらった。
『なぜ、こんなことに……、わたしは、……、いったいなにをして……』
すべては過去の産物であり、意識が同化している間に起こる一時的な感覚の共有であったが、生々しい感触につき、ミュオンの頭は混乱した。見知らぬ男と性交し、ハイロに対する罪悪感にとらわれる。
『ち、ちがいます……! これは、夢です。わたしは、あなた以外の者と、こんな真似をするはずが……っ、……ンァッ!?』
性交したばかりだというのに、ミュオンの下腹部は大きく膨らみ、陣痛が始まった。岸辺にいた男に無理やり引きあげられ、草原のうえで出産に備える。股のあいだを男の指が這うと、ミュオンの背筋はゾッとした。
『くっ、うぅっ!』
子宮口がひらき、膜を突き破ってリヒトが産道をおりてくる。激痛に腰が砕けると思ったが、人間の男が「だいじょうぶだ」と声をかけた。それは、やさしくおちついた調子で、どこかなつかしい響きにつき、ミュオンは無意識に肩の力を抜いた。出産に臨むミュオンは必死に息み、人間の男に励まされながら、ひと晩かけてリヒトを誕生させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『……フッ、水の精霊よ。そなたが生みだした最初の泥沼が、どのような末路をたどるのか、じきにすべてが露見するであろう。くり返される負の連鎖をどう断ち切るか、見物だな』
地の精霊ジェミャは、人間と水の精霊の情事を感じとっていた。分化をくり返す性質をもたないジェミャの肉体は光かがやき、恍惚の表情を浮かべる。
『たぐいもない生が、産声をあげる。解放の尖端となるか、大地をにくむか、人間らしさをあざむく象徴よ、あらゆる季節を生きのびて、大地に春を告げる果実となれ』
愛しあうふたりが息絶えても、彼らの血潮が流れる者へ、かがやく花束(生命の欠片)を届ける役目は、ジェミャに託された。
『ミュオン、その身が無実無心と思うなかれ。そなたは、われが見つめる双瞳の先で、淫らに花を散らせたのだ』
ジェミャの表情は険しくなり、この世ならぬ享楽を経験した水の精霊を羨ましく思った。ふたりの愛するわが子が、その希少な身を亡くすまでは──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
★つづく
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