異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

文字の大きさ
上 下
151 / 171
第9部

第151話

しおりを挟む

 コスモスの花が秋風にゆれていた。紅葉の季節が近づき、木々の葉も鮮やかな色に変わり、すがすがしい秋晴れの日がつづいている。森林域の秋は短く、冬は駆け足でやってくるため、冬眠の習性をもつ野生動物たちは、たくさんの栄養を求め、縄張り以外の場所まで歩きまわっていた。

 ミュオンがふしぎな球体を生みだしてから、ひと月が経過した。新しい小屋で生活を始めた亮介は、ノネコとコリス、半獣属の姿のハイロと暮らしており、ミュオンは存在しなかった。

 朝の食事後、ハイロは周囲の警戒にあたるため、小屋を留守にするようになった。そして、ハイロと入れ替わるようにやってくるのは、ジェミャである。以前は全裸で堂々とふるまっていたが、最近のジェミャはミュオンと似たような淡い色の一張羅いっちょうらを身につけている。さらに、10歳くらいの子どもの手を引いて歩く姿は、亮介を驚かせた。

「あの子を最初に見たとき、ジェミャさんが母親なのかと思ったよ」

『笑わせるな。われは、生みも生ませもしておらぬ。これ、、に名前などない。人間くさいところもあるが、精霊と半獣属の両親をもつ、唯一無二の存在だ。……仮に〈リヒト〉と呼ぶことにしている』

「リヒトって、ずっと前にこの森で生まれた子の名前だよね? 勝手に使っちゃっていいのかなぁ……」

『構うものか。それに、こやつは生き写しみたいなものだ。水の精霊ミューオン生命いのちがけで出産した欠片かけらって、誕生したのだからな』

(……う、また、、その話かぁ。……ミュオンさんが消えてしまったなんて、僕は信じないけどね! だって、感じるもの。僕にはわかる。ミュオンさんは、完全に消えたわけじゃない。まだ、どこかで生きてる。僕らの前にあらわれないのは、なにか理由があるからで、こっちから探しに行くよりは、信じて待っていたほうが、また逢えるような気がするんだ。だからハイロさんも、あんなにおちついているんだと思う。ミュオンさんが帰ってくる場所を、今も、全力で守ってるんだ!)

 ミュオンが最初で最後の出産を経験した日、ハイロはひとりで小屋へもどった。ひどく憔悴しょうすいしていたが、ハイロなりに起きたことを打ち明け、あわてる亮介たちを説得した。

 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 地の精霊ジェミャは、息絶えているミュオンの蘇生を最優先するハイロを横目に、生命の欠片を手にすると、ふたたび地中へ姿を消した。必死に人工呼吸をくり返すうち、ミュオンの心臓はふたたび鼓動を始めたが、ハイロのからだをすり抜けて溜池に身を沈めてしまう。

「ミュオン!」

 水面から腕をのばすハイロは、かすかに笑みを浮かべるミュオンと目があい、分化するために水底へ向かっているのではないかと察した。

「ミュオン、忘れるなよ。おまえには帰る場所がある。おまえの無事を祈る家族がいることを、おぼえていてくれ」

 暗い水底へ消えゆくミュオンとは、永遠の別れとなるかもしれない状況につき、ハイロは溜池に飛びこんで精霊の本体を無理やり引きあげたい衝動に駆られた。ミュオンが生みだした球体は、ジェミャが持ち去り、ハイロの手もとにはなにも残らなかった。妻と子の両方をいちどに失った気分になり、良心の呵責かしゃくに悩まされたが、やわらかい秋風が吹いてくると、ハイロは重たげな足取りで帰路についた。

「リョウスケ、ノネコ、コリス。おちついて聞いてくれ。ミュオンが出産した。無事に生まれはしたが、地の精霊に持ち去られた。悪いようにするとは思えんが、今はミュオンの回復を期待して、なにもせず待ってみようと思う」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

処理中です...