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第8部
第145話
しおりを挟む焼いた川魚で昼ごはんをすませ、目的地を目ざして歩く亮介たちは、急な雨にふられ、足止めを食らった。雨宿りができそうな大木の下に集まり、晴れるまで時間をつぶした。
「そうだ、ノネコさん。また、久しぶりに森の話を聞かせてほしいな。僕、今ならなにを聞いても、そんなに驚かない自信あるよ」
と言いつつ、「それじゃあ、きみが黒蛇に食われるかもしれない可能性について」と前置きされ、「えー!?」と叫んだ。
「僕、ヘビに食べられちゃうの? あっ、ジェミャさんが言ってた生贄の話?」
『リョウスケくん、ジェミャに遭ったのですか。いつ……』
「はぐれたときか」
亮介の反応に、かたわらのミュオンとハイロも会話に参加した。まだ眠たげなコリスは、亮介が胸に抱える荷物へ飛び乗り、「ほわぁ~あ」と欠伸した。丸太小屋での暮らしぶりが(比較的)おちついてきたころに仲間入りした仔栗鼠は、あまり関心が引かれない話題のようだ。どんなときも無理をせず、等身大のふるまいを見せるコリスは、亮介を信頼して眠りにつく。
(かわいいな、コリスくんの寝顔。ちょっと撫でちゃえ)
キールを力いっぱい抱きしめたときと異なり、亮介は赤ちゃんに触れる手つきで、ふわふわとした頭を撫でた。が、コリスの毛並みは、思ったよりごわごわした感触だった。
(う~ん、やっぱり、いちばんもふもふしてるのは、ハイロさんに決定!)
ノネコを抱きしめたことはないが、見るからに細く、しなやかに動く手足や尻尾は、やわらかそうである。血迷った亮介がハイロの背中に飛びついたとき、ツンツンとした感触のほか、理想的な手応えを覚えた。(幕開け/第16話より)。
(ハイロさん、ずっと人型になってるけど、疲れないかな……。また、倒れたときは、ちゃんと僕が助けてあげなきゃ!)
現在のハイロは、半獣の姿にもどることができた。人型でいるときよりも、本来の灰色大熊になったほうが、からだに負担はかからない。だが、ミュオンを支えるため、必要以上の体力を消耗してまで、人型を選んでいる。
(かっこいいなぁ。僕も、あんなふうになれるかな……。ハイロさんみたいに、好きな人を全力で支えたい……!)
理想の自分を思い描くうち、疲労を感じて眠くなった亮介は、ノネコの話を聞きながら、スースー寝息を立てた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水の精霊が生んだリヒトは、人間の男を父と呼び、順調に成長してゆく。
「父さん、父さん。あっちに行ってくる」
「あまり遠くへ行きすぎるなよ。肉食獣には気をつけろ」
「うん、わかった!」
父親似の息子は、元気いっぱい森を駆けめぐる。野生児とまではいかないが、文明社会を知らずに生きるリヒトは、どこか人間離れした雰囲気を漂わせていた。そのせいか、知能ある半獣属は近寄って来ず、リヒトには友と呼べる存在はできなかった。いつもひとりで遊ぶ姿は、やがて大神の目に留まる。
「人間の子よ、妙な気配をまとっているな」
わずかながら精霊の血が流れるリヒトに興味を引かれたオオカミは、ヒタヒタと近づき、池をのぞき込んでいた子どもの背中を前足でつついた。
「わ、かっこいい! オオカミだ」
人語をあやつる肉食獣を見ても恐れず、両眼をキラキラと輝かせるリヒトは、この日からオオカミとたくさん話をするようになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(……夢?)
目が覚めた亮介は、雨のふるにおいで現実にもどった。
(今のは、なに? 僕くらいの男の子が、オオカミと大事な話をしてた……)
亮介が奇蹟の証人となる日は近い。地中をうごめく黒蛇は、すぐそこまで迫っている。
★つづく
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