144 / 171
第8部
第144話
しおりを挟むキールが丸太小屋でクマやキツネと対峙しているころ、新たな住居を目ざして移動中の亮介たちは、歩き疲れたというコリスや、ミュオンの体力を気づかい、川辺で休憩した。
『とても清々しいですね♪』
水気の漂う場所は、ミュオンにとって心地よく、めずらしく穏やかな笑顔を見せた。荷物を一箇所にまとめてから川岸へ近づくハイロは、「水浴びをしたらどうだ」という。
『結構です』
「いいから脱げ。向こうに岩陰がある。そこでゆっくり休んでこいよ」
ハイロが指をさす方向とは逆の浅瀬で、亮介とノネコは足でバシャバシャと水飛沫をあげ、楽しそうに遊んでいる。コリスは、ハイロがまとめた荷物のうえで昼寝をした。
(冷たくて気持ちいい~。森の夏って、そこまで暑くないけど、水場って、テンションあがるなぁ!)
「おや、リョウスケくん見たまえ。淡水魚だ」
「わ、ほんとうだ。……もしかして、この魚、食べられたりする?」
「もちろんだとも。ちょうど昼時だしね。ふたりで魚をとって、みんなで食べるとしよう」
こんなとき、キールがいれば「どっちが多く捕まえるか競争だ!」といって、にぎやかになりそうだ。
(キール、どうしてるかな。お昼ごはん、食べてる時間かな)
のんびり泳ぐ魚を素手で狙いながら、亮介は別れたばかりのキールを気にかけた。少年とノネコが魚とりを始めたのを見たハイロは、昼飯の調達を彼らにまかせ、衣服を脱いで上半身裸になると、汗ばむからだをニッシュの布で拭きとった。それから、岩陰に姿を消したミュオンのほうへまわり、具合を確認した。
裸身で水に浸かるミュオンは、下腹部を支えるように両手を添え、大きな岩にもたれていた。半裸のハイロが近づくと、立てていた膝を折り曲げ、姿勢を低めた。
「そんな前かがみになると、腹が圧迫されて苦しいだろう。もっと楽にしろよ」
『あ、あなたがきたから、隠しているのです。……それとも、見たいのですか?』
「ああ。見せてくれ」
きっぱり言い放つハイロは、たじろぐミュオンの肩を軽くつかむと、顔を寄せて口唇を合わせた。一瞬、ミュオンの表情は硬張るが、突き返すほど気力がわかず、そのままハイロと口づけにおよんだ。恋人の時間であっても、なぜか不機嫌になりやすいミュオンだが、出産時は無防備な姿をさらすことになるため、寒気がする背中を気にしないようにした。ハイロの両腕に身をゆだね、しばらく目を閉じていると、からだが熱くなるのを感じた。
『すみません……』
「なにが」
『あなたはきっと、わたしのせいで、妬まれているのでしょうね』
「大熊のことか」
『それもありますが、精霊から半獣属の子が誕生すれば、すぐに話題となり、森じゅうを騒がせることでしょう』
「自慢してやればいい」
『冗談にしては、笑えない発言ですね』
片足が痺れてきたミュオンは、水のなかで両足をのばした。ハイロも衣服を脱いで裸身になると、岩の窪みに引っかけ、腰まで浸かった。ならんですわり、水の流れる音に耳をすませる。亮介とノネコの声が明るく響く夏の正午、ミュオンとハイロは、水底に沈む黒蛇を引きあげる白昼夢をみた。
「なんだ、今のは……」
『あなたも、同じ幻影を……?』
「たぶんな。リョウスケを襲った大蛇が、どこかに沈んでいた」
『あのときの黒蛇は、どうしているでしょう』
「喰い損ねたリョウスケを、探している可能性は捨てきれん」
『わたしたちは、狙われてばかりいますね……』
「好きにさせとけばいい」
顔を横向けたハイロは笑みを浮かべ、ミュオンを困惑させた。
★つづく
15
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

悪役に好かれていますがどうやって逃げれますか!?
菟圃(うさぎはたけ)
BL
「ネヴィ、どうして私から逃げるのですか?」
冷ややかながらも、熱がこもった瞳で僕を見つめる物語最大の悪役。
それに詰められる子悪党令息の僕。
なんでこんなことになったの!?
ーーーーーーーーーーー
前世で読んでいた恋愛小説【貴女の手を取るのは?】に登場していた子悪党令息ネヴィレント・ツェーリアに転生した僕。
子悪党令息なのに断罪は家での軟禁程度から死刑まで幅広い罰を受けるキャラに転生してしまった。
平凡な人生を生きるために奮闘した結果、あり得ない展開になっていき…
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる