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第8部
第144話
しおりを挟むキールが丸太小屋でクマやキツネと対峙しているころ、新たな住居を目ざして移動中の亮介たちは、歩き疲れたというコリスや、ミュオンの体力を気づかい、川辺で休憩した。
『とても清々しいですね♪』
水気の漂う場所は、ミュオンにとって心地よく、めずらしく穏やかな笑顔を見せた。荷物を一箇所にまとめてから川岸へ近づくハイロは、「水浴びをしたらどうだ」という。
『結構です』
「いいから脱げ。向こうに岩陰がある。そこでゆっくり休んでこいよ」
ハイロが指をさす方向とは逆の浅瀬で、亮介とノネコは足でバシャバシャと水飛沫をあげ、楽しそうに遊んでいる。コリスは、ハイロがまとめた荷物のうえで昼寝をした。
(冷たくて気持ちいい~。森の夏って、そこまで暑くないけど、水場って、テンションあがるなぁ!)
「おや、リョウスケくん見たまえ。淡水魚だ」
「わ、ほんとうだ。……もしかして、この魚、食べられたりする?」
「もちろんだとも。ちょうど昼時だしね。ふたりで魚をとって、みんなで食べるとしよう」
こんなとき、キールがいれば「どっちが多く捕まえるか競争だ!」といって、にぎやかになりそうだ。
(キール、どうしてるかな。お昼ごはん、食べてる時間かな)
のんびり泳ぐ魚を素手で狙いながら、亮介は別れたばかりのキールを気にかけた。少年とノネコが魚とりを始めたのを見たハイロは、昼飯の調達を彼らにまかせ、衣服を脱いで上半身裸になると、汗ばむからだをニッシュの布で拭きとった。それから、岩陰に姿を消したミュオンのほうへまわり、具合を確認した。
裸身で水に浸かるミュオンは、下腹部を支えるように両手を添え、大きな岩にもたれていた。半裸のハイロが近づくと、立てていた膝を折り曲げ、姿勢を低めた。
「そんな前かがみになると、腹が圧迫されて苦しいだろう。もっと楽にしろよ」
『あ、あなたがきたから、隠しているのです。……それとも、見たいのですか?』
「ああ。見せてくれ」
きっぱり言い放つハイロは、たじろぐミュオンの肩を軽くつかむと、顔を寄せて口唇を合わせた。一瞬、ミュオンの表情は硬張るが、突き返すほど気力がわかず、そのままハイロと口づけにおよんだ。恋人の時間であっても、なぜか不機嫌になりやすいミュオンだが、出産時は無防備な姿をさらすことになるため、寒気がする背中を気にしないようにした。ハイロの両腕に身をゆだね、しばらく目を閉じていると、からだが熱くなるのを感じた。
『すみません……』
「なにが」
『あなたはきっと、わたしのせいで、妬まれているのでしょうね』
「大熊のことか」
『それもありますが、精霊から半獣属の子が誕生すれば、すぐに話題となり、森じゅうを騒がせることでしょう』
「自慢してやればいい」
『冗談にしては、笑えない発言ですね』
片足が痺れてきたミュオンは、水のなかで両足をのばした。ハイロも衣服を脱いで裸身になると、岩の窪みに引っかけ、腰まで浸かった。ならんですわり、水の流れる音に耳をすませる。亮介とノネコの声が明るく響く夏の正午、ミュオンとハイロは、水底に沈む黒蛇を引きあげる白昼夢をみた。
「なんだ、今のは……」
『あなたも、同じ幻影を……?』
「たぶんな。リョウスケを襲った大蛇が、どこかに沈んでいた」
『あのときの黒蛇は、どうしているでしょう』
「喰い損ねたリョウスケを、探している可能性は捨てきれん」
『わたしたちは、狙われてばかりいますね……』
「好きにさせとけばいい」
顔を横向けたハイロは笑みを浮かべ、ミュオンを困惑させた。
★つづく
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