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第7部
第128話
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※性描写あり。ご注意ください
少し時間軸はもどり、丸太小屋で引っ越しの準備をする亮介は、ミュオンの容姿は男につき、おっぱいがでるのか気になった。
(赤ちゃんには母乳が必要になるけど、ミュオンさんの胸、ぺったんこだよね……。そのうち膨らんでくるのかな……)
思ったことを口にした亮介に、キールが吹いた。
「バッカじゃねーの、リョースケ! 精霊は、おいらたちとはからだの構造がちがうんだぜ? おっぱいなんかでるか。なあ、ミュオン」
『……ええ、そうですね。おそらく、必要ないのだと思います』
淡い水色の浴衣のような一張羅を身につけるミュオンは、薄い胸板へ手のひらを添えると、くすッと笑った。精霊は人間のように生理現象を経て身体機能が成熟するわけではなく、隠しもつ体内の卵細胞が子胤と結合さえすれば、たったいちど出産を経験することができる(ただし例外あり)。ハイロに体内領域へ這入ることを赦したミュオンは、その後、ジェミャによって懐妊を告げられるまで、人型の半獣と性交渉をくり返した。受胎したあとも気まずい関係を払拭できずにいるハイロとミュオンだが、この世で唯一無二の夫婦と言える存在だった。
(これから半獣と精霊の血を引く子どもが誕生するなんて、僕も、ドキドキが止まらない……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そうだ。ねぇ、ジェミャさん」
『人間が精霊に気安く話しかけるな、と言いたいところだが、それも今更か。……なんだ?』
「あのね、僕の正体を、みんなに話したんだ。ジェミャさんは最初から知ってたと思うけど、僕は子どもの姿をしている高校生で、この世界の住人じゃないから……」
引っ越しの移動中、最後尾を歩く亮介は、あとからついてきたジェミャに、そう切り出した。亮介にとって、しゃべる動物や羽のある精霊が共棲する森は、まったくの異世界である。自然の恵みと出逢った仲間たちに感謝して生きる日々は、いつまでつづくのか、人間も半獣も、精霊のように分化して、永遠に存在することはできない。正体を明かしたあとも仲間の態度に変化はなく、内心ホッとした亮介は、ジェミャに相談を持ちかけた。
「僕は、突然この世界にあらわれた人間だけど、ハイロさんやミュオンさんは無条件で助けてくれたし、肉食獣が小動物を襲うのは野生の本能で、それが罪深いってことには、ならないよね」
『なにが言いたい?』
「……うん。ハイロさんと同じ、灰色大熊のあのクマさんがミュオンさんを狙うのは、手に入れたいと思ったからで、だれにでも欲しいものはあるし、それが相手と共有できない以上、動物の世界では、力づくで奪うしか方法はないのかなって……」
『男の嫉妬は見苦しいが、あのクマは、水の精霊を凌辱したいようだしな。ならば、いちどくらい、ミュオンを抱かせてやったらどうだ。おとなしくなるやもしれぬぞ』
「だめだよ、そんなの。ミュオンさんを渡したら、おなかの赤ちゃんだってどうなるか……」
『否、妊娠は関係ない。実際、相手が身ごもったとは知らず、ハイロは何度もミュオンを抱いたようだが、いちど結合した受精卵は、内奥壁に隔離され、他の細胞が侵入することはない。つまり、妊娠したあとも、刺激や快楽を目的とした性交渉は可能だ』
「たとえそうだとしても、ミュオンさんが犠牲になるのは、絶対にだめだよ」
ジェミャとの会話に気を取られた亮介は歩く速度が遅くなり、列の先頭をいくハイロの背中が遠くなっていた。挑発的な言動をする地の精霊は、満足そうに笑っている。
★つづく
少し時間軸はもどり、丸太小屋で引っ越しの準備をする亮介は、ミュオンの容姿は男につき、おっぱいがでるのか気になった。
(赤ちゃんには母乳が必要になるけど、ミュオンさんの胸、ぺったんこだよね……。そのうち膨らんでくるのかな……)
思ったことを口にした亮介に、キールが吹いた。
「バッカじゃねーの、リョースケ! 精霊は、おいらたちとはからだの構造がちがうんだぜ? おっぱいなんかでるか。なあ、ミュオン」
『……ええ、そうですね。おそらく、必要ないのだと思います』
淡い水色の浴衣のような一張羅を身につけるミュオンは、薄い胸板へ手のひらを添えると、くすッと笑った。精霊は人間のように生理現象を経て身体機能が成熟するわけではなく、隠しもつ体内の卵細胞が子胤と結合さえすれば、たったいちど出産を経験することができる(ただし例外あり)。ハイロに体内領域へ這入ることを赦したミュオンは、その後、ジェミャによって懐妊を告げられるまで、人型の半獣と性交渉をくり返した。受胎したあとも気まずい関係を払拭できずにいるハイロとミュオンだが、この世で唯一無二の夫婦と言える存在だった。
(これから半獣と精霊の血を引く子どもが誕生するなんて、僕も、ドキドキが止まらない……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そうだ。ねぇ、ジェミャさん」
『人間が精霊に気安く話しかけるな、と言いたいところだが、それも今更か。……なんだ?』
「あのね、僕の正体を、みんなに話したんだ。ジェミャさんは最初から知ってたと思うけど、僕は子どもの姿をしている高校生で、この世界の住人じゃないから……」
引っ越しの移動中、最後尾を歩く亮介は、あとからついてきたジェミャに、そう切り出した。亮介にとって、しゃべる動物や羽のある精霊が共棲する森は、まったくの異世界である。自然の恵みと出逢った仲間たちに感謝して生きる日々は、いつまでつづくのか、人間も半獣も、精霊のように分化して、永遠に存在することはできない。正体を明かしたあとも仲間の態度に変化はなく、内心ホッとした亮介は、ジェミャに相談を持ちかけた。
「僕は、突然この世界にあらわれた人間だけど、ハイロさんやミュオンさんは無条件で助けてくれたし、肉食獣が小動物を襲うのは野生の本能で、それが罪深いってことには、ならないよね」
『なにが言いたい?』
「……うん。ハイロさんと同じ、灰色大熊のあのクマさんがミュオンさんを狙うのは、手に入れたいと思ったからで、だれにでも欲しいものはあるし、それが相手と共有できない以上、動物の世界では、力づくで奪うしか方法はないのかなって……」
『男の嫉妬は見苦しいが、あのクマは、水の精霊を凌辱したいようだしな。ならば、いちどくらい、ミュオンを抱かせてやったらどうだ。おとなしくなるやもしれぬぞ』
「だめだよ、そんなの。ミュオンさんを渡したら、おなかの赤ちゃんだってどうなるか……」
『否、妊娠は関係ない。実際、相手が身ごもったとは知らず、ハイロは何度もミュオンを抱いたようだが、いちど結合した受精卵は、内奥壁に隔離され、他の細胞が侵入することはない。つまり、妊娠したあとも、刺激や快楽を目的とした性交渉は可能だ』
「たとえそうだとしても、ミュオンさんが犠牲になるのは、絶対にだめだよ」
ジェミャとの会話に気を取られた亮介は歩く速度が遅くなり、列の先頭をいくハイロの背中が遠くなっていた。挑発的な言動をする地の精霊は、満足そうに笑っている。
★つづく
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