128 / 171
第7部
第128話
しおりを挟む
※性描写あり。ご注意ください
少し時間軸はもどり、丸太小屋で引っ越しの準備をする亮介は、ミュオンの容姿は男につき、おっぱいがでるのか気になった。
(赤ちゃんには母乳が必要になるけど、ミュオンさんの胸、ぺったんこだよね……。そのうち膨らんでくるのかな……)
思ったことを口にした亮介に、キールが吹いた。
「バッカじゃねーの、リョースケ! 精霊は、おいらたちとはからだの構造がちがうんだぜ? おっぱいなんかでるか。なあ、ミュオン」
『……ええ、そうですね。おそらく、必要ないのだと思います』
淡い水色の浴衣のような一張羅を身につけるミュオンは、薄い胸板へ手のひらを添えると、くすッと笑った。精霊は人間のように生理現象を経て身体機能が成熟するわけではなく、隠しもつ体内の卵細胞が子胤と結合さえすれば、たったいちど出産を経験することができる(ただし例外あり)。ハイロに体内領域へ這入ることを赦したミュオンは、その後、ジェミャによって懐妊を告げられるまで、人型の半獣と性交渉をくり返した。受胎したあとも気まずい関係を払拭できずにいるハイロとミュオンだが、この世で唯一無二の夫婦と言える存在だった。
(これから半獣と精霊の血を引く子どもが誕生するなんて、僕も、ドキドキが止まらない……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そうだ。ねぇ、ジェミャさん」
『人間が精霊に気安く話しかけるな、と言いたいところだが、それも今更か。……なんだ?』
「あのね、僕の正体を、みんなに話したんだ。ジェミャさんは最初から知ってたと思うけど、僕は子どもの姿をしている高校生で、この世界の住人じゃないから……」
引っ越しの移動中、最後尾を歩く亮介は、あとからついてきたジェミャに、そう切り出した。亮介にとって、しゃべる動物や羽のある精霊が共棲する森は、まったくの異世界である。自然の恵みと出逢った仲間たちに感謝して生きる日々は、いつまでつづくのか、人間も半獣も、精霊のように分化して、永遠に存在することはできない。正体を明かしたあとも仲間の態度に変化はなく、内心ホッとした亮介は、ジェミャに相談を持ちかけた。
「僕は、突然この世界にあらわれた人間だけど、ハイロさんやミュオンさんは無条件で助けてくれたし、肉食獣が小動物を襲うのは野生の本能で、それが罪深いってことには、ならないよね」
『なにが言いたい?』
「……うん。ハイロさんと同じ、灰色大熊のあのクマさんがミュオンさんを狙うのは、手に入れたいと思ったからで、だれにでも欲しいものはあるし、それが相手と共有できない以上、動物の世界では、力づくで奪うしか方法はないのかなって……」
『男の嫉妬は見苦しいが、あのクマは、水の精霊を凌辱したいようだしな。ならば、いちどくらい、ミュオンを抱かせてやったらどうだ。おとなしくなるやもしれぬぞ』
「だめだよ、そんなの。ミュオンさんを渡したら、おなかの赤ちゃんだってどうなるか……」
『否、妊娠は関係ない。実際、相手が身ごもったとは知らず、ハイロは何度もミュオンを抱いたようだが、いちど結合した受精卵は、内奥壁に隔離され、他の細胞が侵入することはない。つまり、妊娠したあとも、刺激や快楽を目的とした性交渉は可能だ』
「たとえそうだとしても、ミュオンさんが犠牲になるのは、絶対にだめだよ」
ジェミャとの会話に気を取られた亮介は歩く速度が遅くなり、列の先頭をいくハイロの背中が遠くなっていた。挑発的な言動をする地の精霊は、満足そうに笑っている。
★つづく
少し時間軸はもどり、丸太小屋で引っ越しの準備をする亮介は、ミュオンの容姿は男につき、おっぱいがでるのか気になった。
(赤ちゃんには母乳が必要になるけど、ミュオンさんの胸、ぺったんこだよね……。そのうち膨らんでくるのかな……)
思ったことを口にした亮介に、キールが吹いた。
「バッカじゃねーの、リョースケ! 精霊は、おいらたちとはからだの構造がちがうんだぜ? おっぱいなんかでるか。なあ、ミュオン」
『……ええ、そうですね。おそらく、必要ないのだと思います』
淡い水色の浴衣のような一張羅を身につけるミュオンは、薄い胸板へ手のひらを添えると、くすッと笑った。精霊は人間のように生理現象を経て身体機能が成熟するわけではなく、隠しもつ体内の卵細胞が子胤と結合さえすれば、たったいちど出産を経験することができる(ただし例外あり)。ハイロに体内領域へ這入ることを赦したミュオンは、その後、ジェミャによって懐妊を告げられるまで、人型の半獣と性交渉をくり返した。受胎したあとも気まずい関係を払拭できずにいるハイロとミュオンだが、この世で唯一無二の夫婦と言える存在だった。
(これから半獣と精霊の血を引く子どもが誕生するなんて、僕も、ドキドキが止まらない……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そうだ。ねぇ、ジェミャさん」
『人間が精霊に気安く話しかけるな、と言いたいところだが、それも今更か。……なんだ?』
「あのね、僕の正体を、みんなに話したんだ。ジェミャさんは最初から知ってたと思うけど、僕は子どもの姿をしている高校生で、この世界の住人じゃないから……」
引っ越しの移動中、最後尾を歩く亮介は、あとからついてきたジェミャに、そう切り出した。亮介にとって、しゃべる動物や羽のある精霊が共棲する森は、まったくの異世界である。自然の恵みと出逢った仲間たちに感謝して生きる日々は、いつまでつづくのか、人間も半獣も、精霊のように分化して、永遠に存在することはできない。正体を明かしたあとも仲間の態度に変化はなく、内心ホッとした亮介は、ジェミャに相談を持ちかけた。
「僕は、突然この世界にあらわれた人間だけど、ハイロさんやミュオンさんは無条件で助けてくれたし、肉食獣が小動物を襲うのは野生の本能で、それが罪深いってことには、ならないよね」
『なにが言いたい?』
「……うん。ハイロさんと同じ、灰色大熊のあのクマさんがミュオンさんを狙うのは、手に入れたいと思ったからで、だれにでも欲しいものはあるし、それが相手と共有できない以上、動物の世界では、力づくで奪うしか方法はないのかなって……」
『男の嫉妬は見苦しいが、あのクマは、水の精霊を凌辱したいようだしな。ならば、いちどくらい、ミュオンを抱かせてやったらどうだ。おとなしくなるやもしれぬぞ』
「だめだよ、そんなの。ミュオンさんを渡したら、おなかの赤ちゃんだってどうなるか……」
『否、妊娠は関係ない。実際、相手が身ごもったとは知らず、ハイロは何度もミュオンを抱いたようだが、いちど結合した受精卵は、内奥壁に隔離され、他の細胞が侵入することはない。つまり、妊娠したあとも、刺激や快楽を目的とした性交渉は可能だ』
「たとえそうだとしても、ミュオンさんが犠牲になるのは、絶対にだめだよ」
ジェミャとの会話に気を取られた亮介は歩く速度が遅くなり、列の先頭をいくハイロの背中が遠くなっていた。挑発的な言動をする地の精霊は、満足そうに笑っている。
★つづく
24
お気に入りに追加
602
あなたにおすすめの小説
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載しているので、もしよかったら!
本編完結しました!
既にお受けしたリクエストをお書きした後、2部をはじめる予定ですー!
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました。読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる