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第7部
第122話
しおりを挟むまさに機会を狙っていた仔熊は、ジェミャが放った霊力を身に受けるため、瞬時の判断で飛び込んだ。
「あっ、コグマさん!?」と、亮介。
「兄者ーっ!!」と、キツネが叫ぶ。
丸太小屋の室内に閃光が走り、隠し部屋で横になっていたミュオンも、ハッと上体を起こした。
『こ、これは、ジェミャの霊力……?』
ビリビリと全身が痺れるような感覚に顔をしかめるミュオンは、思うようにからだに力がはいらず、内側から精気が吸い取られているような倦怠感が否めなかった。新たな生命の形成には養分が必要であり、それは母体から吸収されるため、ミュオンの霊力は半減していた。
『みんなは、無事でしょうか』
ハイロに食事の用意ができるまで部屋で休むように言われたが、不安を覚えたミュオンは、少しふくらんできた下腹部に手を添え、ゆっくり立ちあがった。妊娠期間は属性によって変動があり、水の性質をもつミュオンは、精霊のなかでも短いほうで、受精から数十日後には出産へと進む。前例のない経験につき、あと数日で陣痛が始まるとは考えもつかないミュオンは、階段をおりて亮介たちのようすを確認した。
『ほう、謀ったな。その忍耐に免じて、見過ごしてやろう』
口の端を吊りあげるジェミャは、地の精霊が放出した霊力に体当たりして、本来の姿を取りもどした大熊を見据え、やや皮肉めいた笑みを浮かべて言った。幼獣の状態から急激な成長を遂げた大熊は、「ガォーッ!」と、唸り声をあげると、キールとコリスのからだに巻きつく食尽植物の蔓を一刀両断した。つづけざまに亮介をふり返り、突進してくる。
「目障りな人間め!」
家族の一員になれたらと迎い入れた大熊に敵視された亮介は、ひどく困惑した。グワッと爪攻撃をくりだすクマを見た水の精霊は、『いけません!』と声をあげ、『リョウスケくんを傷つけないでください!』と訴えた。鼻先に鋭い爪が迫り、寸前の距離で空振りする。おどろいた亮介は、ぺたんとその場に尻もちをついた。
「クマさん、なんで……?」
「オレは、ずっとこのときを待っていた。おまえらの、息の根を止める瞬間を!」
「そんな、僕はただ、みんなといっしょに……」
説得してもムダだとわかっていても、亮介は悲しい気持ちになった。相容れない存在に対し、片方が歩み寄ろうとしても意味がない。残念ながら、大熊に亮介の思いを汲み取る寛容さはなかった。
★つづく
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