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第6部
第119話
しおりを挟む「なんでオレサマが、こんなことしなきゃならねえンでい!」
「ひょえ~、こっちに向かって石を投げないでよ~、危ないじゃないか~」
「こらぁ、ふたりとも、あと少しだからケンカ禁止!」
よく晴れた日の午後、亮介はコリスとキツネの2匹といっしょに、森へ食材集めに出かけた。丸太小屋には、キールとノネコ、仔熊が残り、ハイロは、外の空気が吸いたいというミュオンに付き添って、周辺を散策している。
(ふう、きょうもいい天気だなぁ。……やっぱり、ノネコさんはなにか知ってそうだけど、役者がそろってない、なんて、はぐらかされちゃったし、ミュオンさんも妊娠がわかって大事なときだし、僕ひとりが悩んでるわけにもいかないよね。……ジェミャさんも、しばらく帰ってこないし、そもそも、僕たちのところにもどってくるのかな?)
少しずつ確実に、亮介の生活環境は変わりつつあった。ノネコが胸に秘める情報は気になるものの、現時点で、もっとも重要な件は、ミュオンの出産を無事に見届けることである。なにより、情緒不安定のミュオンを気づかいながら、丁寧に時間をかけて子づくりに専念したハイロは、誰よりも赤子の誕生を待ち望んでいると思われた。
(精霊と半獣の両親から子どもが生まれてくるなんて、奇蹟みたいだ……)
亮介にとって異世界の摂理とは、無限の可能性がひろがっており、自然界を支配する理法は、計り知れない魅了にあふれていた。今更のように、長い夢でも見ているのではないかという気持ちがわいてきたが、目のまえにしゃべる動物がいるかぎり、これは現実なのだと考えを改めた。
(すごい自由な世界……。なんて、ふしぎな経験だろう……)
おそらく、自分は貴重な時間を過ごしている。現状を前向きに受けとめることで、どんな困難も乗り越えていけそうな気がした。ありがたいことに、亮介には最初から仲間がいる。彼らと共に歩む道は平坦ではないが、みんなが安心して笑顔で暮らせる日常を願わずにはいられない。
(ああ、神様。どうか、お願いします。赤ちゃんが無事に生まれてきますように……、このまま順調にいきますように……)
新たに増える家族が健やかであるよう、天に祈らずにはいられない亮介は、無意識に手のひらを合わせた。攻撃的なキツネから逃げるように走りまわるコリスは、めずらしい花を見つけて「ほえ?」と、首をかしげた。
★つづく
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