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第6部

第114話

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 寝室からミュオンの悲鳴があがると、ハイロは目の前に立つ亮介に「どけ」と短く注意をうながした。それから、有無うむを云わさず扉へ腕をのばすと、ガチャッではなく、バンッと、勢いよく開放し、室内の状況を確認した。

「ミュオンさん、無事っ?」

 ハイロの脇から顔をだして叫ぶ亮介の目に飛びこんできた光景は、全裸の精霊がベッドの上でもつれ合っていた。ハイロはジェミャの乱入に気を留めたが、すぐさまミュオンの枕もとへ歩み寄り、具合を確認した。

「おい、だいじょうぶか」

『……あ、……はい。わたしは、なんともありません』

 ハイロの登場により、内心ホッとしたミュオンは、ジェミャを押し返して起きあがると、たのもしい腕に背中を支えてもらった。裸身はだかであることに意識がおよばないようすにつき、亮介は視線をジェミャのほうへ移した。出逢ったときから衣服を身につけない地の精霊は、ベッドから床へおりると、腰に手を当て、『そいつの卵細胞は、受精しているぞ』と断言する。

「それってつまり……、おめでたってこと?」

『水の精霊には、原始卵胞の機能があるようだ。両性体に子宮があるとはかぎらないが、特有の分泌液が開口部の奥に溜まっている。それに、この甘ったるいにおい、、、、まちがいない。妊娠確実だ』

 ジェミャは、自分の右手の内側をペロリと舐めて云う。ミュオンが悲鳴をあげた理由は、ジェミャの指が体内領域へ挿入された瞬間の、不快な刺激によるものだった。見た目は雄性のミュオンだが、ハイロと性交をくり返した結果、妊娠の初期段階へ移行していた。経過を見まもるだけの立場となったハイロは、掛け布団を引き寄せ、ミュオンの肩へあてがった。

「す、すごい。やったね、ミュオンさん。おめでとう、ふたりとも!」

 亮介は心の底から祝福したが、にわかに信じられないミュオンは、自らの腹部をさすり、目を細めた。

『わたしが出産なんて、本当に可能なのでしょうか……。異種族の胎児がこの身に宿るなんて、夢のような話です……』

「そう云わず、どうか無事に産んでくれ。ようやく、おれたちは子を授かったんだ。よろこばしいことだと思わないか」

『……そう……ですね。……わたしがもっと、しっかりしなければ』

 ハイロに念を押されるミュオンの瞳は、無意識にうるんでいた。やがて誕生する新たな生命には、名前が必要である。ミュオンとハイロは、暗黙の了解で亮介の顔を見据えた。


★つづく
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