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第6部

第112話

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 精霊は分化したあと、遺伝情報の多くを共有しながら成長し、同一個体を生みだす。だが、ある回数以上の分離をすると、少しずつ記憶が失われていく。

 かつて、丸太小屋で灰色大熊と暮らした水の精霊は、まちがいなく同一個体であり、のちに半獣属の始祖と定める人間と情を交わした精霊も、ミュオンであった。前者の交流は何事もなく終了したが、後者は肉体関係におよび、精霊は赤子を出産している。

 亮介が異世界の森にあらわれた直後、水の精霊と灰色大熊はふたたび出逢い、ハイロが人型になったあと、正式な交際をはじめた(最大の目的は子づくりだが……)。


『妊娠した……、わたしが……』
『そうさ、まちがいない。おまえから雌性特有のにおい、、、がする』
『それがほんとうならば、いつ……』
『油断するな。受け身のおまえが大変なのは、これからだ。おのれの体内でさまざまな細胞が分裂して新たなたねが生成される。その過程で起きることは、おまえが身をもって体験する』
『……ジェミャ? あはたは、なにか知っているのですか』
『知るわけないだろ。おまえの怯える顔が見たいだけだ。このたいらな腹をいて産まれる存在に、少し興味もある』

 言いながら、ジェミャはミュオンの腹部を指先でひと撫でした。衣服の裾をまくられているミュオンは、急所に向けられる視線と、ジェミャの指の動きに困惑した。妊娠が発覚した以上、力づくで抵抗しては、経過を損ねるおそれがある。さいわい、ジェミャの表情は軽やかで、悪意は感じない。ミュオンは、ふたりぶんの具合を気にして、すがままに応じた。

 半獣属ハイロとのあいだに子ができた。その事実で頭のなかがいっぱいになるミュオンは、無意識に涙をこぼした。顔だけ横向け、肌に舌を這わせてくるジェミャを意識の外へ追いやった。寝室の窓はニッシュのカーテンで遮光されており、うす暗い。精霊のたわむれは、しばらくつづいた。


「扉の前につっ立って、なにしてるんだ」

「あっ、ハイロさん!」

 きょうもミュオンと性交したハイロは、ふたたび川で身を清めて帰宅した。裏口から室内へ顔をだしたが、庭先に待機するキツネや仔熊の気配を察し、微かに眉をひそめる。説明しろ、という目で、亮介を見おろしてきた。

「こ、これには深い事情があって、えっと、まずは……」

 話す順番に悩んで口ごもる亮介の背後で、ミュオンが小さく悲鳴をあげた。


★つづく
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