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第6部
第108話
しおりを挟む『血迷うたな、半獣め。われに襲いかかるとは、浅はかなり』
「ジェミャさん、腕から血が!」
『よるな。これしきの傷、たいしたことはない』
手首に流れる血を舌先で舐めるジェミャは、裸足でクマの頭部を踏みつけると、『フゥッ』と息を吹きかけた。それは透明な膜に変わり、クマの全身を包みこんだかと思えば、パァンッと弾け、サラサラと砂のように散った。その直後、衝撃的な展開となる。突然、クマは「グアーッ!」とうめき声をあげ、亮介たちの目の前で仔熊へと姿を変えた。
「あ、兄者!?」
驚いて駆け寄るキツネは、可愛らしい見た目へと変貌を遂げたクマを心配するあまり、「このヤロウ!」といってジェミャに向かって飛びついた。いつのまにか、キツネにも精霊が見えるようになっている。
『フッ、愚かな』
ジェミャが放った砂塵によって押し返されたキツネは、バッシャーンッと、川底へ沈んだ。すぐさま「プハッ」と顔をだし、仔熊のもとまでバシャバシャと水飛沫をあげて走ってくる。
「この、全裸ヤロウめ! 兄者に何しやがった!」
川辺にちょこんとおすわりする仔熊は、状況判断ができないようすで、キョロキョロ周囲を見まわすと、生まれつきひらかない左目が気になり、ごしごしと搔いている。
「どういうこと? あのクマさんが小さくなっちゃった……」
視覚情報の限界に達した亮介は、両腕をひろげ、クマとキツネに飛びついた。
「ふたりとも、かわいすぎるよー!」
思ったとおり、仔熊はもふもふしていた。キツネは全身がぬれていたが、見た目の愛らしさにがまんできず、ぎゅっと、抱きかかえた。キツネは「やめろ!」といって、抵抗する。
「こら、人間、オレサマに気安く触るな! 兄者を離せ!」
「だって、こんなにかわいいんだもん! 少しくらい、もふらせてよ~」
「も、もふる? ふざけるなゴラァ!」
シャーッと牙を剥くキツネに向かって、幼獣化したクマがバシッと手のひらで頬をビンタした。
「ひ、ひでぇ、兄者! なにするンでい」
「クゥ? グゥゥ……」
「兄者? ま、まさか……」
「ブォッ、ブォッ」
「ことばを忘れちまったんで!?」
「え、そうなの?」「ほえ~っ」と、亮介とコリスも驚いて、仔熊を見つめた。背後で高笑いするジェミャは、『ざまぁない』という。
『われは、偉大なる精霊なり。この身に断りなく手をかけたものは、無力化されて当然だ』
「ジェミャさんが、クマさんを小さくしたの?」
『否、自業自得である』
★つづく
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