104 / 171
第6部
第104話
しおりを挟む好物を焦らされたとき、よだれを垂らすのは、半獣属も同じだった。ミュオンを奪い返したくて興奮するクマは、口の端からボタッと、よだれをこぼした。
「精霊の名前は、ミュオンというのか。やけに上品な響きだ。ハイロとは大熊のことだな。ようやく、すべてに合点がいく。そこの人間の始末は後まわしだ。……どけ。雑魚に用はない」
『ことばを慎め。われは地の精霊ジェミャなり。半獣ごときが、たやすく命じるとは、赦さんぞ』
バサッと4枚の羽をひろげて飛翔したジェミャは、クマの頭上を通過して、キツネの背後へまわり込むと、ゴゴゴッと地面を揺るがせた。
「じ、地震!? 兄者、さっきから誰と話してるんで?」
精霊の姿が視えないキツネは、クマの足もとへ駆け寄った。ミュオンをめぐり敵対する両者は、しばらく沈黙した。
(このクマさん、そんなにミュオンさんが欲しいの? 捕まえたら、食べる気だったりして……。でも、ミュオンさんはハイロさんと子づくり中だし、あとから横取りするなんて、そんなのだめだよね……)
クマの計画は阻止すべき内容につき、亮介は頭のなかでジェミャに話しかけた。
(ジェミャさん、聞こえる? クマさんを改心させる方法、何かないかな。このままだと、丸太小屋までついてきそうだし、ミュオンさんに対する思いを、どうにか変えてもらわないと……)
亮介の心の声を受けとったジェミャは、『クククッ』と微笑するなり、クマに向かって両腕をひろげて見せた。
『おもしろい。そうまでして手に入れたくば、正々堂々、恋敵と勝負せよ。見事、勝利したあかつきには、きさまに〈水の精霊〉を呉れてやるわ!』
(はい? 今、なんて!?)
予想外の発言に、亮介は顔面が崩壊した。目を白黒させ、口をパクパクしていると、同時に「ひょえ~っ」と叫んだコリスの存在で、我に返った。
「ちょっと、ジェミャさん、なに言ってるのさ。ミュオンさんを、勝手に戦利品扱いしないでよ!」
『フッ、かまうものか。水の精霊は、万物に息吹をあたえるものなり。ただのひとりが占有しては、贅沢というものだ』
しれっとした口調で説くジェミャは、この状況を愉しんでいた。ハイロとクマを競わせるとは、単純すぎる。だいいち、こんな提案を敵方が聞き入れるわけがない。しかし、クマは思案顔になり、なにやら考えこんでいた。
★つづく
14
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる