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第6部
第102話
しおりを挟むハイロとミュオンが気まずい状況のなか、川の上流で自己浄化をした亮介とコリスの前に、半獣属の大熊とキツネがあらわれた。
「あわわっ、こっちにくるよー!!」
丸太小屋でキツネに突き飛ばされた経験をもつコリスは、恐怖に怯え、亮介の首筋へしがみついた。ハイロ以外の大熊を見た亮介は、肉食獣の気迫に足がすくみ、接近を許してしまった。
(た、食べられる!?)
うなり声をあげるクマは、勢いよく亮介に向かって突進するが、寸前のところでジェミャが息を吹きつけ、強風に視界を遮られた。
「な、なんだ? 今の突風は……」と、驚くキツネは、地の精霊の姿が見えていないようだ。しかし、クマはちがった。亮介の前に降り立つ精霊をにらみつけると、じりじりと後ずさり、安全な距離を保った。
(クマさんのほうは、ジェミャさんが見えてる?)
精霊が味方のうちは、亮介にも考える余裕が生まれた。ジェミャのうしろから顔をだし、クマのようすを観察すると、左目を閉じている点が気になった。
(ウインクしてるみたい。……そんなわけないか。もしかして、生まれつき?)
目立った外傷はなく、片目だけまぶたを閉じている容貌につき、先天性の障害だと思われた。また、右目の視力も弱いため、嗅覚をたよりに対象を見分けている。
『クククッ、ずいぶんと野性味の強い灰色大熊だな。……なんだ、おまえ。精霊に遺恨でもあるのか』
ジェミャの問いに、クマは太い眉をひそめ、沈黙を破った。
「あると言えばあるが、きさまにではない」
(わっ、低い声!)
灰色大熊といえば[森の王獣]である。人型時のハイロに見慣れていた亮介は、自然界で生き抜く半獣の迫力に、ごくんと唾を呑んだ。
(すごい。僕の目の前に、あんな大きな野生の熊がいる。動物園なら、頑丈な檻越しじゃなきゃ、危険すぎる近さだ。あ、キツネさんもいたっけ……)
亮介は、思いだしたかのように視線を泳がせた。コリスを痛めつけたキツネは、浅瀬に立ち、こちらを見つめていた。体長60センチほどで、もさっとした焦茶色の尾が特徴的である。イヌ科の仲間だが、野生の場合、日本では鳥獣保護管理法により、一般家庭での飼育は禁止されている。
(しっぽがふさふさ。もふりたい!)
見た目の愛らしさに緊張感が薄れていく亮介だが、「グオーッ」というクマの鳴き声にハッと顔をあげた。
★つづく
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