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第6部

第101話

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 丸太小屋の隠し部屋で過ごすハイロとミュオンは、互いに向きあってすわり、ノネコが煎じた緑茶を飲んでくつろいでいた。とはいえ、無言で膝をつきあわせていると、どうにも息が詰まるミュオンは、小さくため息を吐いた。

『……なにも、ずっとそばにいる必要はないでしょう。たまには気分転換に、散歩でもしてきてください』

「あいにく、それはできん。いつ、おまえの体調が変化するか、わからんからな」

『……まさか、出産に立ちあうつもりですか』 

「当然だ。放っておけるわけないだろう」

 ハイロは至って真剣な表情で念をおすと、木製のマグカップを口へ運び、やや渋めの緑茶を飲んだ。ミュオンとしては、半獣属との性交渉を恥じている状況につき、胎児を取りあげる役目は、ノネコあたりにたのむつもりでいた。しかし、ハイロの考えは異なっていた。

『……変態』

 思わず顔をしかめるミュオンだが、ハイロは無反応を示した。昼下がりの情事におよぶには、ふたりのあいだに流れる空気は重たい。それもそのはずで、膠着こうちゃく状態が長引くため、どちらかに問題があるのではないかという、不安と焦燥感は否めない。これまで、受け身の精神面に配慮して問わずにいたが、ハイロはマグカップへ落としていた視線をあげ、ミュオンを見据えた。


「精霊の出産も、人間と同じなんだな」

『え?』

「おれの先祖の話だ。どれくらい前か、はっきりしない記憶だが、水の精霊に惚れた灰色大熊ハイイロオオクマは、この丸太小屋で生活を共にしていたことがある。……そのときの大熊やつは、罪悪感から手をだせず、最終的に精霊のもとを離れていったが、おそらく、どちらも後悔したはすだ」

『なにが言いたいのです』

「おれに反発する理由は、先祖の確執かくしつが原因なのか?」

『な、なんですか、その自分勝手な解釈は。わたしがあなたを遠ざける理由と過去の経緯は、なにも関係ありませんよ』

 いくら人型とはいえ、半獣属の腕に抱かれるミュオンは、ひどく不満そうな顔をして、素直にがろうとしない。いっぽうハイロは、なるべく丁寧に、時間をかけて抱くようにしていたが、ミュオンの心はたされていなかった。

 結局、精霊という立場の自尊心が邪魔をして、いつまでも、ハイロを好きだと思う自分が信じられず、ミュオンはもどかしく感じた。したがって、子どもが誕生すれば、ひとまず、互いに肩の力を抜けるだろう。


★つづく
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