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第6部

第94話

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 森の奥地にある閉鎖林は、いかにも、、、、、なにか出てきそうな空気が流れている。亮介とコリスは辺りを観察しながら進み、ある程度のところで立ちどまった。森は、奇妙なほどしずまりかえっている。

「けっこう歩いたけど、なにも起こらないね……」

「閉鎖林の突き当たりは壁だから、太陽が明るいうちに、引き返したほうがいいと思うよ~」

 亮介はコリスの意見にうなずき、くるりと反転した。そのとき、誰かの視線を感じてふり向くが、姿を確認することはできなかった。

(……僕たち、どこからか見られてる?)

 ミュオンの放った精気は、亮介の五感に影響をあたえていた。本来ならば気がつかない機微きびに、からだが反応を示す。それは亮介の意思ではなく、細胞が必要以上に働いているような感覚だった。そのせいか、夜になると妙な疲労感にとらわれ、朝まで熟睡してしまう。日中に消耗した体力や気力は、充分な睡眠をとらなければ蓄積され、手足が重くなった。

(最近、ひざがズキズキするときがあるンだよね……。これって成長痛かな? 背が伸びるのかも……)

 8歳児の体型は、本来の姿ではない。亮介は夢と希望あふれる、16歳の高校男児なのだ。見た目は8歳(生殖行為の基本形式が身にそなわる前)とはいえ、心は思春期まっ最中である。


「リョースケくんって、好きな子いる?」


 突然、質問された亮介は、「はへ?」と、変な声がでた。うす暗い閉鎖林で取りあげる話題ではないが、コリスは至ってまじめな顔つきでく。


「ぼくね、これでも9歳なんだよ。あ、人間の年齢で数えると、18歳くらいだよ。だから、そろそろお嫁さんをもらわなきゃ、いけないんだ」

「へ、へえ! コリスくんは、僕より歳上としうえだね」

「うん、そうなの。ふつうの動物より半獣属は長生きだけど、繁殖期が訪れる回数は個体ごとに決まってるの。でも、無理して子孫を残す必要はないと思わない?」

「無理って、なにが?」

「ぼく、交尾可能なメスを見つけても、興奮しないんだ」

「え?」

 のんびり屋で常に明るいコリスだが、ハイロとミュオンの関係(既成事実)に触発され、生理作用が過敏になっていた。しかし、どれほど血流が集中しても、性行為における状態を維持することができなかった。

(……それって、も、もしかして、勃起不全なんじゃ?)

 コリスの意外な事情を打ち明けられた亮介は、返すことばに悩んだ。


★つづく
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