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第5部
第90話
しおりを挟む夕食後、ハイロが地の精霊と対峙した事実をノネコから報された亮介は、素直に驚いた。
「それ、ほんとう? ついに、ミュオンさん以外の精霊を見つけたんだね!」
「ああ、嘘ではないよ。わたしは実際に見たわけではないけれど、地の精霊の名前はジェミャというようだ。それも、地面を広範囲にわたって割くほどの力を持っている」
「危ねえやつだな。攻撃してきたのかよ」と、キールが会話に参加した。ノネコは首を横にふり、「あくまで、わたしとハイロさんを引き離すことが目的だったね」と、正解を述べた。
「どうして?」と、亮介が訊く。光華石の灯りを囲み、会話がつづく(ハイロは退席している)。
「精霊というのはね、なんと言うか、われわれの反応を見て愉しむような、性質のよろしくない連中もいるのだよ。……つまり、即座に性的な関係を要求してきたりね」
「ハイロのおっさんが、ジェミャって精霊に誘惑されたってことか」
キールの科白に、ノネコはうなずき、すぐさま補足した。
「そのようだね。むろん、ハイロさんは手を出さなかったけど、地の精霊に不快な思いをさせた以上、報復行為に気をつけたほうがいいかもしれないね」
「さすが灰色大熊だな。モテモテじゃねーか。おっさんも、色々たいへんだな」
キールは同情めいた顔をするが、数秒後には笑っていた。
「なんか、わかってきたぜ。ミュオンのやつ、ハイロのおっさんが他の精霊に惑わされないか心配で、きょう1日、ずっとそわそわしてたンだな」
相手のことを強く思えばこそ、些細な事柄が気になってしようがない。ミュオンは無自覚だが、亮介からハイロに執着する相手が変わっていた。お互いの意見がぶつかり合っても親密な関係が保たれ、つい本心を吐露してしまうのは、相手に自分のことをわかってほしいという気持ちがあるからだ。
亮介たちの会話がはずむなか、屋根裏部屋には重苦しい空気が流れていた。夕食のあと、ハイロは光華石を持って、ミュオンの前に顔をだした。
「おれだ。はいるぞ」
前置きをして扉をひらく。屋根裏は天井が低いため、ハイロは前かがみの姿勢で窓辺にすわる精霊に近づいた。
『きょう、ジェミャに逢いましたね』
という精霊の表情は、悲しげに見えた。ハイロは「ああ」と短く答えると、光華石を床へ置いた。それから、ミュオンのとなりに胡坐した。
★つづく
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