異世界で８歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ？

第４部

第68話

※性表現あり。読み飛ばしても次話に影響ありません
　
　
　◇　◇　◇　◇　◇　◇
　

　生命は、要素や成分の絶え間ない入れ換えによって維持されており、主に水と高分子（たんぱく質など）からなる細胞を基礎として表現されている。

　雌雄しゆう器官を備える動物は、生殖によって種の維持が可能であり、精霊は分化によって新たな個体を生みだし、絶滅することはない。異なるシステムで種形成を維持してきた人間と精霊が性的に交わった結果、歴史は半獣属の誕生を開放した。

　本来ならば対立する遺伝子が結びつき、精霊のなかに構造体を発生させる（身ごもる）ことは、奇蹟としか言いようがない。雄性でありながら人間を愛した精霊は、ゆっくりと分子の構築に変化があらわれ、妊娠に必要な器官が形成されたことになる。

　もっとも、奇蹟の二次特性は、外見上はまったく静かなうちに形態が完了したため、精霊が自覚症状を告げるまで、人間は子を宿やどす可能性を失念していた。ただ、愛しあって、からだをつなげていた。性行為が新たな個体を誕生させることになるとは、考えもしなかった。


　◇　◇　◇　◇　◇　◇


　ハイロは、割れそうに痛む頭を片手で支えながら、交わる肉体に嫌悪感を覚えた。むろん、森の記憶を見せられている状態につき、人間と精霊にハイロの声は届かない。なにより、受け身の精霊はミュオンそのもの、、、、と酷似しているため、快楽にあえぐ姿がなまなましく、激しく乱れてゆく吐息も耳障りだった。


　や……めろ……　
　こんな場面もの、おれに視みせるな……
　あいつはまだ、どこも穢れちゃいない


　精霊の本質は、他者を惑まどわし、快楽主義に堕落させること。精霊の甘い誘惑にいざなわれ、極上の気分を味わったものは、やがて精気を奪われ灰と化す。遠い昔から、そう言い伝えられてきた。だが、事実は異なっていた。ハイロの葛藤をよそに、夢中で抱きあっていた人間と精霊は、互いに絶頂をむかえ、折り重なるように倒れこんでいる。

　ハイロの位置からでは、人間の汗ばむ背中や手足しか見えなかった。どのような顔をしているのか不明のまま、両者の幻影は薄れていく。

　ハイロは、試されている──。

　断片的な部分には、なにか、、、を暗示する意図があった。それが誰の意志によるものなのか、丸太小屋で留守番中の亮介も、疑問に思いはじめていた。

　われに返ったハイロは、バチーンッと、なぜか平手打ひらてうちを喰らった。


★つづく