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第4部
第66話
しおりを挟む半獣属にとって黒蛇は、素手で戦えるほど、たやすくはない。だが、ハイロと同じく、先祖がえりした場合、初めて本来の自己の姿と向きあうことができ、新しい精神性に目覚め、倫理的な生き方が可能となる。
黒蛇の行動選択は、地中を這いまわり、死なないためだけに他者を喰い尽くす。仲間意識はなく単独者につき、罪悪感に苛まれることもなかった。多くの半獣属は、こうあるべきだという理想をもっていたが、黒蛇は思考を切断し、栄養摂取のためだけに地上の獲物を食している。まるで臓器や細胞が脳(心)とは独立して活動しているような、対話を必要としない機械的な側面が、特徴的だった。
つまり、黒蛇が地上に姿をあらわしたとき、いちばん近くにいる生きものが捕食対象となる。言語によって関係性を示せない以上、なるべく出喰わさないよう注意すべき存在だが、ハイロは逃げも隠れもしなかった。異なる特性を有する両者は、気づかぬところで制約を受けていたが、知の土台が腐敗することはない。そう考えると、思考を停止している黒蛇の最大の欠点は、自己統治の放棄である。
土の下で暮らす動物は、原初状態より進化せず、姿を変えず時代を過ぎてゆくものたちが、たくさんいた。黒蛇も、初期に派生した半獣属だが、ことばを発することはなかった。
ゴバァッと、勢いよく地表を砕いて顔をだす黒蛇は、川辺に佇むハイロを視野にとらえた。自分の頭より大きな獲物を丸呑みすることができる大蛇の顎は、方形骨により可動域がひろく、上下左右に開口することが可能である。さらに、口いっぱいに獲物をほおばっても、肋骨を開いたり閉じたり動かすことで、肺に空気を送りこみ、窒息することはない。
ハイロに向かって迫る黒蛇は、4本の鋭い牙をもっていた。グバァッと大きく顎を割った瞬間、黒蛇の巨体より高く水柱が立ち、空中でパァンッと破裂音を響かせ、細かく球体化した水飛沫が、黒蛇と大熊を目がけて飛んできた。
一粒でも威力のある水のかたまりがハイロの頬をスパッと切り裂き、身体の面積がひろい黒蛇は、いくつもの切り傷を負った。キシャーッと悲鳴のような叫び声をあげ、ふたたび土の中へともどっていく。無用な戦いは避けられたが、立ちのぼる水けむりの先に揺らめく影があった。灰色大熊の真の敵、大神である。
★つづく
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