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第4部
第61話
しおりを挟む水鳥のさえずりに耳をかたむける亮介は、水面に浮かぶ羽に目を留めた。
ハイロとミュオンの消息がつかめないまま、数日ほど経過した。亮介はキールやノネコと話し合い、森のなかを探しまわることにした(体力のないコリスは、基本的に留守番担当)。
(……きょうも日が暮れる。そろそろ家に帰らなきゃ。……ミュオンさん、ハイロさん、ふたりとも、どこにいるの?)
つい、大声で名前を呼びたくなるが、野生動物や半獣たちの聴覚を刺激しないよう、捜索には注意が必要だった。
「だいぶ離れてしまったね。きょうのところはこれまでにして、もどるとしよう」
リーダー気質なノネコは、亮介とキールの顔を交互に見、「いいね?」と念をおす。
「うん。ちょうど僕もそう思ったよ」
「ちぇっ、きょうも無駄足かよ。ったく、ハイロのおっさんは、どこでなにをしてンのかね。さっさとミュオンを連れて帰ってこいっての」
わかりやすく腹を立てるキールは、ふたりの無事を信じてうたがわない。それはみんな同じ気持ちにつき、ノネコは真顔で、「愛情が芽生えて急接近した結果、子づくりを計画中かもしれないね」と、冗談を言った。
「子づくりって、どういう意味?」
うかつにも亮介が聞き返すと、ノネコは微笑した。
「すまない、失言かな。いずれにしても、夏は灰色大熊にとっては繁殖期だからね。リョウスケくんの見た夢が幻影ではなく事実ならば、半獣属と精霊が恋仲に発展する可能性もあるだろう? わたしたちの元へ帰れない理由があるとすれば、すぐには動けない変化が起きているのかもしれないと、単純に思ったんだ」
「けっ。だとすれば、ミュオンのやつ、半獣属と交尾したことになるぞ」
「実際、彼らが肉体をつなげるには、安全な場所を見つけるほうが先だろう。そして、その場所をわたしたちが探し当てるのは、非常にむずかしい。そう簡単にたどり着ける立地条件を、ハイロさんが巣穴に選ぶとは考えにくい」
「なんか微妙な意見だけどよ、一理あるかもしれねぇな。……ミュオンのことだ。うっかり身ごもっちまったら、赤ん坊を産むまで、もどってこねー気がする」
「ち、ちょっとふたりとも、話が飛躍しすぎじゃない?」
思わず口をはさむ亮介だが、好意を隠そうとして嫌がっていた場合、まんざらでもない関係なのではと、推測してしまった。
★つづく
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