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第3部
第60話
しおりを挟む亮介が異世界の森へ8歳児の姿で飛ばされた原因は、第三者の存在が関与していると思われた。誰かが森のどこかで自分を待っているとしたら、その理由を知るためにも、亮介は積極的に行動を起こすべきである。当初の目的とは少し異なるが、自己浄化を終えた状態での探索は、精霊との遭遇率も高くなる。
異世界について知識を深めたい亮介だが、まずは現代人としての日常を打ち明け、聞き手にまわる半獣たち(キール、ノネコ、コリス)を、おおいに驚かせた。
「で、電子レンジ? あたためるだけで飯が食えるなんて、信じられるかっての」
キールは、当然ツッコんでくる。
「ほんとうだってば。できた料理を冷凍して保存したり、レトルト食品とか真空パックとか、いろいろ売ってるんだよ。あと、注文した料理をつくってくれるレストランも、たくさんあるよ」
「ほえ~、リョースケくんの世界には、魔法使いさんがいるの? 食べたいものを出してくれるなんて、うらやましいな~」
コリスは、つぶらな瞳をキラキラと光らせ、食べもの系の話題に興味津々である。
「リョウスケくんの話こそ、まるで夢のようだね。きみが何者なのか、よくぞ告げてくれた。身の上を語る勇気に、わたしだけでも敬意をはらおう」
なぜか深々と頭をさげるノネコに、「やめてよ。感謝してるのは僕のほうだ」と返す亮介は、さきほどから空腹が気になった。腹が減っては戦はできぬとばかり、昼食の準備をするため庭の畑へ向かうと、キールがついてきた。
(今は丸太小屋で待つことしかできないけれど、なにが起ころうと、みんないっしょにいれば、きっとだいじょうぶだよね。だからね、ハイロさん……。ミュオンさんとふたりで、はやく帰ってきて……)
家族全員の安否が確認できるまで、亮介は気を抜くわけにはいかない。背筋をのばし、慎重な行動が求められた。
「遅いな、おっさんとミュオン」
亮介と協力して野菜の入ったカゴを運ぶキールは、門扉を見つめ、さびしそうな顔つきに変わった。キールたち半獣属にとっても、精霊の存在は近寄りがたく神秘的な生きものにつき、むやみに接点をもつことはなかった。しかし、ミュオンと共に過ごした時間は、キールの攻撃性をほんの少し抑える効果があった。いまや、丸太小屋で暮らす仲間のあいだには、信頼関係が成立している。
(みんなを守らなくちゃ。僕を受け容れてくれたみんなを、誰かに奪われたりなんかしない!)
★つづく
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