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第3部
第58話
しおりを挟む滅多に姿を見せることのない大神が、キールとノネコの前にあらわれた。誘われるがまま、あとを追った二匹は、いつも水浴びに使う池の端をうろうろした。
「おい、なんか変だぞ。オオカミのやつ、こっちへ行ったよな?」
「そうだね。相手を見失うほどの距離ではなかったはずだ。しかし、対面したとき、彼から臭気を感じ取れなかった。……まるで、幻影を見たかのように」
「そういや、獣族のにおいがしねぇな」
キールは周辺を見まわし、鼻をヒクヒクさせた。静かな池畔に人影はなく、近くに半獣属の気配もない。二匹は怪訝な面持ちでその場をあとにし、丸太小屋へ急いでもどった。
「リョースケ! コリス!」
「皆さん、ご無事ですか!」
ようやく、キールとノネコが帰宅したとき、亮介とコリスは食器棚のうしろに隠れていた。寝室の扉は開放されており、ひと目でベッドの上に誰もいないことがわかる。キールは「ミュオンは、どこだ!?」といって、青ざめた。コリスは亮介の肩に乗り、必死に事情を説明した。感情の起伏で顔つきが迷走するキールをよそに、ノネコは沈着冷静だった。
水の精霊が大熊に連れ去られ、ハイロが救出に向かってから、1時間ほど経過している。むやみに出歩かず、室内で待機していたほうが無難だと思われた。ノネコは、不安がる亮介やコリスにとっては、さらに耳が痛い話を聞かせた。
「ひょえ~、あの池にオオカミがいたの~? ぼくたち、ここにいてだいじょうぶなのかなぁ」
というコリスに、ノネコが「平気さ」と、うなずく。
「現時点では、あまり動きまわらないほうがいいと思う。ハイロさんの帰りを待って、これからのことを考えよう」
その意見に、亮介がうなずく。
「僕も、ハイロさんならミュオンさんを助けてくれると思うし、とにかく、みんなでいっしょにふたりを待とう」
今にも外へ飛びだしそうなイタチを、亮介が引きとめた。キールは玄関の近くで行ったり来たりをくり返している。ひとまず、ミュオン以外の無事を確認できた亮介は、ハイロがもどるまで、少しでも疑問点を減らそうと思い、コップに水を注ぐノネコに訊ねた。
「精霊って、男性でも赤ちゃん産めるんだ?」
質問の突飛さに手をとめたノネコは、亮介の顔を見据えた。キールとコリスは一瞬ぎょっとなるが、少年の訊ねている内容に興味が引かれたようすで、耳をかたむけた。
★つづく
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