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第3部
第57話
しおりを挟む亮介が丸太小屋へ帰宅したころ、靄のせいで遠まわりを強いられるキールとノネコは、まだ森のなかを走っていた。
「あ~、くそっ! やっぱり、さっきのとこを右にいけばよかったンじゃねーか!?」
「わたしはそう言ったはずだよ。キールくんこそ、なぜ根拠もなく左を選んだのです?」
「う、うるせぇ! いいから黙って走れ!」
渡り鳥いわく、丸太小屋が狙われていると知ったキールは、誰よりも速く駆けだした。高い運動能力をもつイタチは瞬発的な速さに飛び抜けており、ノネコはとっさに追いかけた。川の上流は行動圏外につき、予期せぬ不都合が発生する場合もある。単独より二組で動いたほうが、いざというとき役に立つ。とはいえ、無鉄砲なキールのあとにつくノネコは、道に迷った時点で少し後悔した。
「まったく、仲間思いな点はけっこうだが、むやみな行動は命知らずと言えよう」
ノネコがため息を吐くと、キールはピタッと急停止した。靄が薄れてきた先に、いつも亮介と水浴びをする池が見えた。丸太小屋は近い。そう思って足を前へ踏みだすと、樹上で鳥がやたらと啼き交わした。ギャアギャアッ、ピーチチッ、ギーギーッ。
「やけに鳥が騒がしいな」
思わず空を見あげたキールとノネコは、突如として強い風にあおられ、からだごと後方へよろめいた。
「うわっ、なんだ!?」
ぎゅっと目を閉じてパッと開けると、青みがかった毛色のたてがみをもつ一頭の大神が、颯爽とあらわれた。食肉目イヌ科のオオカミは狩猟に特化した哺乳動物の半獣属で、上がり眉に、金眼、歯ぐきが見える大きさの口が特徴的である。行動派な性格らしく、威厳と壮麗さを兼ねた雰囲気が、立ち姿から伝わってきた。
「オ、オオカミ……」
イタチのキールにとっては、畏怖すべき存在である。野生の本能は回避行動をうながすが、互いにことばをあやつれる半獣属につき、ノネコは上位者に対して義務的な敬意を払いつつ、一歩前へ進みでた。
「これはこれは、お初にお目にかかります。わたしは野猫と申します。このような場所で崇高なる大神と出逢えるとは、イタチのキール共々、光栄の極みなり」
いくらかおおげさなあいさつだが、オオカミは無言で目を細めると、からだをフイッと反転させ、池のほうへ静かに去っていく。キールとノネコは顔を見合わせたのち、やや緊張ぎみに追いかけた。
★つづく
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