異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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第3部

第55話

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※森の追憶⑤


 水氣にゆらめく精霊は、森林域の空気がいつもと異なる点に関心を示さず、4枚の羽をひろげ、水浴びをしていた。腰までのびた長い銀色の髪を指でいていると、パキッと、地面に朽ちた枝を踏みつける音がして、静かに顔を向けた。池の畔に、腕から血を流してたたずむ者がいる。見れば、人間の男だった。


「……わ、悪い。のぞくつもりはなかったが、できれば、傷口を洗わせてくれないか」 

 池の水が必要だという男は、自然環境の調査のため、森に足を運び、少し前、いきなり肉食獣に噛みつかれたと状況を説明した。裸身で水に浸かる精霊を人外だとは思わず、背中の羽は、なにかのカムフラージュだろうと考えた。だが、その認識は即座に打ち消される。水の精霊は、人間の男のまえでふわりと空中に浮かんでみせ、ゆっくり近づいてきた。

 驚きのあまり絶句する男は、その後、水の精霊との交流期間を経て、恋仲こいなかに発展する。人間の男は、野生動物によって深い傷を負ったことが原因で細胞が変異していくが、完全なる獣族けものの姿に移行するまで(男を始祖として半獣属が森に定着するまで)、数百年かかった。


『あなたの子を、身ごもりました』


 ある日、それは突然告げられた。人間の男は、雄性の精霊が妊娠するとは知らされず、たびたび性交渉におよんでいた。あまりにも予想外な出来事だったが、よろこばしくもあり、出産に向けて、より精霊と親密な関係を築いた。やがて、リヒトが誕生する。そして、少年は奇蹟の泉水で完全変態を遂げ、母方ミュオンの水氣と融合した。美しい青年は、人間の父親とは異なる進化の道を選んだことで、水の精霊と半獣は、惹かれあうという摂理が樹立じゅりつする。目には直接見えなくても、内部環境に独自の活動領域をもつ潜在能力は、生態系に行動指針としての叡智を蓄えていく。

 すべての種族は遺伝情報をもち、時間や空間を超えて、伝達、共有していた。亮介もまた、自身のルーツについて、この森と関係があるからこそ、8歳児の姿で引きもどされたのではないかと、あらためて出自が気になった。

 
「ゼェ、ハァッ」

「少し休むか」

「だ、だいじょうぶ! この辺り、見覚えがあるよ。僕に合わせないで、ハイロさんは先に行って!」


 丸太小屋まで、あと数キロの地点までくると、息切れをする少年をハイロが気づかった。亮介は首をふり、大熊を精霊の元へ急がせた。


★つづく
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