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第2部
第42話
しおりを挟む「僕に、興味?」
「そうさ。リョウスケくんは、どこから来たんだい」
(に、日本だけど、言っても平気かな?)
ノネコの関心は精霊ではなく、少年に向けられた。今こそ、正体を打ち明けるときだ。亮介はそう思ったが、緊張のあまり口ごもってしまった。とはいえ、第三者によって秘密を暴かれるより、潔く白状しておけば、多少なりとも罪の意識は免れる。
自分について、人間はどれだけ説明できるだろう。何者か問われたとき、過去や将来を語るより、調和を意識してこたえるほうが、なめらかな時間を共有できる。心のうちでどう思われようと、対立を望まないのであれば、空気を濁してはいけない。集団における秩序こそ、なにより重視されるものだ。自分の過失で雰囲気が悪くなった場合、いちおうの詫びを尽くし、ただちに流れを修復する。責任や罪を感じる側には、必然的に義務のようなものが発生していると思われた。
ハイロは、ミュオンが目覚めない原因は、自分が霊力を保有しているせいだと考えた。
亮介は、精霊と半獣属が共存する森に突然あらわれたが、8歳児の見た目が運よく許容されたのか、手を差しのべてくれたミュオンやハイロに、いつか恩返しがしたいと思った。キールやノネコも、野生の本能を抑制してまで、ふつうに接してくれている。コリスに至っては、仲間として迎え入れたい気持ち(策略?)が通じたのか、亮介を捕食対象として見るようすは感じられなくなった(おもてなし作戦、大成功!)。
しばらく亮介の顔を見つめていたノネコは、ふいに、くすッと笑った。
「言いたくなければ、それでも構わないよ。誰にでも、捨てたい過去のひとつやふたつ、あるだろうからね。……それに、リョウスケくんには、長生きしてほしいと思っているよ。ただ、最近は少し物騒だから、気をつけたほうがいいと忠告する」
食器の後片付けを終えたハイロは、ノネコから差しだされた木箱をあけ、眉をひそめた。丸太小屋の近くで見つけた野ネズミの死骸が保管してある。満腹で眠そうにしていたキールも背筋をのばし、ハイロに意見を求めた。
「おっさんは、どう思うよ。こんなものが見つかるなんて、なにか不吉なことが起こる前ぶれかもしれないぜ」
「こいつは、速贄ではないのか。神経を麻痺させ、行動の自由を奪われている」
ハイロは野ネズミに手を触れず、目視で牙痕の影響を指摘した。
「ってことは、今ごろ探してたりして……」
速贄は、捕まえた獲物を保存しておき、あとで自分が食べるための餌である。
「確かに、その可能性はわたしも考えたよ」
「やい、ノネコ。だとしたら勝手に持ってきちゃだめなやつだろ! おいらたちが、横取りしたことになっちまうぞ。今すぐ、もどしてこいよ!」
焦るキールをよそに、平然と構えるノネコは、暮れなずむ庭に目を凝らした。平らな草地に、コリスが寝転がっている。現在地は比較的安全な場所につき、小動物に危機感はなく、穏やかな日常を送っている。しかし、大蛇が獲物を仕留めた痕跡を発見した以上、警戒心を強めたほうが無難である。だが、空を飛んできたコリスの一件もあり、かならずしも肉食動物が出現したとは言い切れない。速贄は、横取りされるケースもある。それは大蛇の誤算ではなく、自然界ではよくあるパターンなのだ。
三者のやりとりを聞き、不安をつのらせる亮介だが、ミュオンの覚醒を待ち望むだけでは、あまりにも時間の経過がもどかしく感じた。
「みんな、聞いて。危険だとしても、僕は行くよ。ミュオンさん以外の精霊を見つけたいんだ。あした、森の奥を目ざそうと思う」
★つづく
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