異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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第2部

第34話

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 池の底に、なにか[ぶよぶよ]した赤い物体が沈んでいる。気になった亮介は水面から腕をのばしてみたが届かず、思いきって息を吸いこむと、ザブッと潜水した。池の水は透明度が高く、目を開けても痛くはない。亮介は物体をつかんで引きあげたが、ふいに手のなかでもぞもぞ動いた瞬間、「ぎゃーっ!?」と叫び、反射的に陸地のほうへ投げつけてしまった。

 毛づくろいをしていたノネコの脇に転がる物体は、ピョコッと耳をたて、「あ~、死ぬところだった~!!」と、大きく肩で息をした。見れば、手のひらサイズの小動物で、ぽちゃっとした体型をしている。おなかは白で、からだは赤みがかった毛色の仔栗鼠コリス(雄の成獣)である。ノネコとは顔見知りにつき、互いに目があうと「おや?」「あれ?」と声にでた。


「ノネコさん見っけ~。こんなところでなにしてるの~」

「コリスくんこそ、このあたりで逢うなんて意外だね。きみの生活圏は、もっと西よりではなかったかい」

「それがさ、聞いてよ~。ぼく、間一髪だったんだよぉ」

 涙目になるコリスいわく、樹上で日光浴をしていたら猛禽類もうきんるいに襲われ、生まれた雛鳥への食糧として運ばれる途中、木々の間から石礫つぶてがあがり、猛禽類の頭部に命中すると、爪からポロッと落ちたコリスは、上空の強風に流されるがまま、ピュルルーッ、バッシャーン、ズボッと、勢いよく池の底に沈没した。

「森から石礫が? それはいったい、誰が狙って投げたのだろう」

「誰でもいいよ~。ちょっと手荒てあらだけど、おかげで、こうして生き延びたからさ~」

 亮介が見つけなければ窒息死もあり得たが、ノネコはあえて最悪の可能性は言及せず、ホッと胸をなでおろすコリスに、「それは災難だったね」と、あわれみの表情を向けた。とっさの判断で放ったにしては、見事な命中率である。目標は空を飛び、不規則な動きをする猛禽類だが、救出劇は(亮介の存在込みで)成功した。


「わわっ、ごめんなさい! 変な丸いの、半獣のリスさんだったの?」


 池の水に浸かったまま亮介が陸地へ身を乗りだすと、コリスは深々と頭をさげた。

「助けていただき、ありがとうございましたぁ。ぼくは半獣のコリスだよ~。きみは外界の人間なのに、森のにおいがして安心するね~」

「へ? 森のにおい?」

 キョトンとする亮介に、「ほめことばだよ」とノネコが補足する。助けてもらっておきながら、まじまじと亮介の肉づきを見たコリスは、ゴクンッと唾を呑みこんだ。野生の仔栗鼠は草食性だが、昆虫や爬虫類なども食べようと思えば食べるし、肉食に移行した種もいた。

「きみ、なんだかすごく、おいしそう、、、、、

 と、コリスは小声でつぶやいた。一瞬、聞きまちがえたのかと思ってぼんやりする亮介は、胸もと目がけて飛びつかれ、片方の乳首をカプッと噛まれた。チクッとした痛みに唖然となる亮介だが、事態に気がついたキールが「おまえ、リョースケになにしてやがる!?」といって、コリスの脇腹を蹴飛ばした。ふたたび、ゴロゴロと地面の上を転がるコリスは、気楽なようすで笑っている。


「あははっ、ごめんごめん~。あまりにもおいしそうだったから、つい、味見してみたくなっちゃった。きみの名前、リョースケって言うんだね。よろしく~」

「なにが、よろしくだ! おいらはイタチ科のキールだ。コリスの分際でリョースケを味見しようなんざ、百万年はやいぜ!!」

 なにやらキールはコリスに火花を散らすが、乳首を噛みつかれた亮介は、ノネコに「平気かい」と問われ、「た、たぶん」と返事をにごした。


(びっくりした……。リスって、肉食だったっけ……?)


★つづく
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