異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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第1部

第29話

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 時刻は夜半を過ぎていた。ハイロが先に目を覚ましたことで、ひとまず、ノネコは水分補給を提案し、寝室をあとにする。ふだんハイロが横になるソファで、亮介とキールが身を寄せあって眠っていた。少し前まで、倒れたふたりを心配して起きていたが、睡魔に襲われたようだ。

「まるで家族のようだね」

 亮介とキールの寝顔を横目に、ノネコは飲料用にいちど加熱した水をコップにいだ。ふたたびベッドでからだを休めるハイロは、となりで眠るミュオンの気息に耳をすませながら、思考をめぐらせた。ノネコの推測が事実だとすれば、ミュオンは、いつ、誰と(人間か、それとも半獣か)、どういった流れで性的な行為におよんだのか、いまいち理解できない。ミュオンは、人間や半獣を嫌悪けんおの対象と見做みなしているため、誘惑する相手が想像できなかった。亮介は例外のようだが、ハイロに至っては、霊力の回復を前提としたキスさえ、きっぱり拒絶された。わだかまりのない日常は、いつか、おとずれるのだろうか。ハイロは、謎めいた精霊の行く末を懸念した。


「う、うぅ~ん、……いま、なんじ?」

「起こしてしまったかい」

「ノネコさん、おはよーございます……」

「まだ深夜だよ」


 物音に気づいて顔をあげた亮介は寝ボケていたが、ノネコに「ハイロさんが目を覚ましたよ」としらされた瞬間、飛び起きた。

「ほ、ほんとう?」

「コップ一杯の水を飲んで、また寝ついたところさ」

「そう、よかったぁ。……ミュオンさんは?」

「どうかな。判断が微妙なところだね。容体は安定しているけれど、本人が覚醒を望まない可能性だってある」

「え? な、なんで? ミュオンさん、目を覚ましたくないの?」

「精霊の自然的な傾向性を考えると、意志に基づく行為によって価値がそこなわれた場合、閉鎖的な意識がはたらいても、おかしくはないからね」

「価値が……、無くなる……?」

 ことばの意味を正しく理解できなかった亮介は、黙りこむしかない。すると、寝ていたはずのキールが、突然口をはさんだ。

「けっ。世界に安らぎをあたえる古神いにしえがみの末裔とまでいわれる精霊のくせに、ずいぶん身勝手だな」

「キール、起きてたの」

「さっきから黙って聞いてりゃ、ミュオンの価値を決めるのは、あいつ自身なんかじゃねーよ。やい、ノネコ。その場しのぎの講釈なら、聞き捨てならねぇから、そのへんでやめろ」

 ノネコは歳上の半獣だが、不粋な物言いがしゃくさわるため、ギロッと目を吊りあげたキールに、ノネコ側も敏感に応じる。

「すまないね。ミュオンさんの気持ちを代弁したつもりはないよ。ただし、精霊は、愛欲や快楽を追い求める神秘的な存在という説が一般論につき、可能性を考えてみただけさ」

「リョースケは、ミュオンの愛児ってか」

「キール? なに言ってるの?」

 話題の矛先が自身に向けられた(ような気がする)亮介は、交わすことばに迷い、聞かされたことばに悩んだ。

(……なんだろう、この違和感。僕だけ、置いてけぼりっぽい。大事な話をしているのに、全然、意味がわからないや。……ノネコさんは、ミュオンさんが不埒ふらちだと思ってるのかな? う~ん、でも、確かに、ちょっとそんな感じもあったりするけれど……)

 亮介の迷想めいそうをよそに、キールは話を切りあげ、ソファで丸くなった。ミュオンを擁護しておきながら、精霊のようすを見にいくわけでもなく、そのまま朝まで眠った。イタチ科の半獣は夜行性が多いが、丸太小屋で亮介と暮らしはじめたキールは、早い段階から規則正しい生活を送っている。ある意味、いちばん健康的な存在だった。


★つづく
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