異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

文字の大きさ
29 / 171
第1部

第29話

しおりを挟む

 時刻は夜半を過ぎていた。ハイロが先に目を覚ましたことで、ひとまず、ノネコは水分補給を提案し、寝室をあとにする。ふだんハイロが横になるソファで、亮介とキールが身を寄せあって眠っていた。少し前まで、倒れたふたりを心配して起きていたが、睡魔に襲われたようだ。

「まるで家族のようだね」

 亮介とキールの寝顔を横目に、ノネコは飲料用にいちど加熱した水をコップにいだ。ふたたびベッドでからだを休めるハイロは、となりで眠るミュオンの気息に耳をすませながら、思考をめぐらせた。ノネコの推測が事実だとすれば、ミュオンは、いつ、誰と(人間か、それとも半獣か)、どういった流れで性的な行為におよんだのか、いまいち理解できない。ミュオンは、人間や半獣を嫌悪けんおの対象と見做みなしているため、誘惑する相手が想像できなかった。亮介は例外のようだが、ハイロに至っては、霊力の回復を前提としたキスさえ、きっぱり拒絶された。わだかまりのない日常は、いつか、おとずれるのだろうか。ハイロは、謎めいた精霊の行く末を懸念した。


「う、うぅ~ん、……いま、なんじ?」

「起こしてしまったかい」

「ノネコさん、おはよーございます……」

「まだ深夜だよ」


 物音に気づいて顔をあげた亮介は寝ボケていたが、ノネコに「ハイロさんが目を覚ましたよ」としらされた瞬間、飛び起きた。

「ほ、ほんとう?」

「コップ一杯の水を飲んで、また寝ついたところさ」

「そう、よかったぁ。……ミュオンさんは?」

「どうかな。判断が微妙なところだね。容体は安定しているけれど、本人が覚醒を望まない可能性だってある」

「え? な、なんで? ミュオンさん、目を覚ましたくないの?」

「精霊の自然的な傾向性を考えると、意志に基づく行為によって価値がそこなわれた場合、閉鎖的な意識がはたらいても、おかしくはないからね」

「価値が……、無くなる……?」

 ことばの意味を正しく理解できなかった亮介は、黙りこむしかない。すると、寝ていたはずのキールが、突然口をはさんだ。

「けっ。世界に安らぎをあたえる古神いにしえがみの末裔とまでいわれる精霊のくせに、ずいぶん身勝手だな」

「キール、起きてたの」

「さっきから黙って聞いてりゃ、ミュオンの価値を決めるのは、あいつ自身なんかじゃねーよ。やい、ノネコ。その場しのぎの講釈なら、聞き捨てならねぇから、そのへんでやめろ」

 ノネコは歳上の半獣だが、不粋な物言いがしゃくさわるため、ギロッと目を吊りあげたキールに、ノネコ側も敏感に応じる。

「すまないね。ミュオンさんの気持ちを代弁したつもりはないよ。ただし、精霊は、愛欲や快楽を追い求める神秘的な存在という説が一般論につき、可能性を考えてみただけさ」

「リョースケは、ミュオンの愛児ってか」

「キール? なに言ってるの?」

 話題の矛先が自身に向けられた(ような気がする)亮介は、交わすことばに迷い、聞かされたことばに悩んだ。

(……なんだろう、この違和感。僕だけ、置いてけぼりっぽい。大事な話をしているのに、全然、意味がわからないや。……ノネコさんは、ミュオンさんが不埒ふらちだと思ってるのかな? う~ん、でも、確かに、ちょっとそんな感じもあったりするけれど……)

 亮介の迷想めいそうをよそに、キールは話を切りあげ、ソファで丸くなった。ミュオンを擁護しておきながら、精霊のようすを見にいくわけでもなく、そのまま朝まで眠った。イタチ科の半獣は夜行性が多いが、丸太小屋で亮介と暮らしはじめたキールは、早い段階から規則正しい生活を送っている。ある意味、いちばん健康的な存在だった。


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...