26 / 171
第1部
第26話
しおりを挟む丸太小屋付近を散歩中のノネコは、にわかに騒がしい声を聞きつけ、亮介の元へ引き返した。
「これはいったい、どうしたんだい」
「見りゃわかるだろ。ハイロのおっさんが倒れたンだよ!」
悠長にかまえるノネコに、憤慨するキールの横で、亮介が「あっ」と叫んだ。
「たいへん! あっちでミュオンさんも倒れてる!!」
木陰で休んでいた精霊も、ぱったり地面に伏していた。
「なっ、なんだ、どうしたよ、ふたりとも!」
キールは跳躍するかのように前足で宙を切り、ピョーンッと、反射的にミュオンのところへ移動すると、そっと肩を揺らした。
「やい、ミュオン、しっかりしろ」
亮介はハイロに、キールはミュオンに話しかけるが、どちらも応答はなく、まぶたを閉じたまま動かない。さいわい、呼吸は乱れておらず、とくに外傷を負った形跡は見られなかった。
「ハイロさん、やっぱり具合が悪かったんだ……」
「これはもしや、先祖がえりの副作用ではないだろうか。ひとまず、部屋に運ぼう。あちらの精霊さんも、放置しておくわけにはいかないね」
ノネコの意見はもっともだが、亮介やキールの力では、大柄なハイロを抱きあげることはできない。ノネコが「どうしたものか」とつぶやく間に、亮介は「そうだ」と妙案を思いつき、丸太小屋の扉を無理やりはずした。
「この上に乗せよう。僕が前を持つから、ノネコさんはうしろをお願いします!」
「ほほう、これは担架というやつだね。なるほど、これならばいけそうだ」
「おいおい、なにやってンだ、おまえら!? ミュオンのやつ、意識がないぞ!!」
いったん亮介と合流したキールは、半獣よりも精霊の容体を気にかけたが、ひとりずつしか運べないため、まずは3人(亮介と2匹)でハイロを戸板に乗せた。
「いち、にの、さん!」
亮介の掛け声に調子をあわせ、なんとかベッドへ寝かせると、次はミュオンの順番である。
「わっ、か、軽い!」
精霊は細身とはいえ、ハイロとの体重の落差が激しく、肩を支える亮介は、一瞬ドキッとした。
「これなら、僕ひとりでじゅうぶんだ」
不安そうに足もとをチョロチョロするキールに「まかせて」と意気込み、ミュオンを背負った亮介は、ハイロのとなりに寝かせた。ふたりをならべても、まだひろい。丸太小屋のベッドは、誰かが同じ部屋で暮らしていた気配が残されていたが、今は、それどころではない。
「思うに」
と、冷静に切りだしたのは、ノネコである。亮介とキールは、病人の枕もとにつき、「なに?」「なんだよ」と、同時に顔をあげた。ノネコは近くの椅子に飛び乗り、これまでの経緯を説明した。
「わたしがこの丸太小屋をたずねたのは、黒蛇に襲われた人間の安否を確認しておきたかったからで、よもや、水の精霊や、先祖がえりした半獣と出喰わすなど、想像の範疇を超えていたよ」
緊急事態にそぐわない講釈に聞こえたキールは、ムッとして反論した。
「その話、ミュオンとハイロのおっさんがたいへんなときに、聞かせる意味あんのか」
「もちろんだとも。ふたりの容体ならば、安静だいいちさ」
「なにもしなくて平気なの」
亮介が口をはさむと、ノネコは心得顔をしてうなずいた。
「正確には、わたしたちにできる治療はないと言うことさ。ハイロさんが倒れたのは、不慣れな肉体に蓄積された疲れや心労が原因ではないだろうか。しばらく横になっていれば、目が覚めると思うよ。ミュオンさんの不調に至っては、まず、精霊の身体構造を知る必要があるね。意識がもどり次第、本人に教えてもらうとしよう」
「それで手遅れになったら、承知しないからな」
キールの脅し文句に、ノネコは「平気さ」と余裕の笑みを浮かべた。
★つづく
96
お気に入りに追加
787
あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる