異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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第1部

第26話

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 丸太小屋付近を散歩中のノネコは、にわかに騒がしい声を聞きつけ、亮介の元へ引き返した。

「これはいったい、どうしたんだい」

「見りゃわかるだろ。ハイロのおっさんが倒れたンだよ!」

 悠長にかまえるノネコに、憤慨するキールの横で、亮介が「あっ」と叫んだ。

「たいへん! あっちでミュオンさんも倒れてる!!」

 木陰で休んでいた精霊も、ぱったり地面に伏していた。

「なっ、なんだ、どうしたよ、ふたりとも!」

 キールは跳躍するかのように前足で宙を切り、ピョーンッと、反射的にミュオンのところへ移動すると、そっと肩を揺らした。

「やい、ミュオン、しっかりしろ」

 亮介はハイロに、キールはミュオンに話しかけるが、どちらも応答はなく、まぶたを閉じたまま動かない。さいわい、呼吸は乱れておらず、とくに外傷を負った形跡は見られなかった。

「ハイロさん、やっぱり具合が悪かったんだ……」

「これはもしや、先祖がえりの副作用ではないだろうか。ひとまず、部屋に運ぼう。あちらの精霊さんも、放置しておくわけにはいかないね」

 ノネコの意見はもっともだが、亮介やキールの力では、大柄なハイロを抱きあげることはできない。ノネコが「どうしたものか」とつぶやく間に、亮介は「そうだ」と妙案を思いつき、丸太小屋の扉を無理やりはずした。

「この上に乗せよう。僕が前を持つから、ノネコさんはうしろをお願いします!」

「ほほう、これは担架たんかというやつだね。なるほど、これならばいけそうだ」

「おいおい、なにやってンだ、おまえら!? ミュオンのやつ、意識がないぞ!!」

 いったん亮介と合流したキールは、半獣よりも精霊の容体を気にかけたが、ひとりずつしか運べないため、まずは3人(亮介と2匹)でハイロを戸板に乗せた。

「いち、にの、さん!」 

 亮介の掛け声に調子をあわせ、なんとかベッドへ寝かせると、次はミュオンの順番ばんである。

「わっ、か、軽い!」

 精霊は細身とはいえ、ハイロとの体重の落差が激しく、肩を支える亮介は、一瞬ドキッとした。

「これなら、僕ひとりでじゅうぶんだ」

 不安そうに足もとをチョロチョロするキールに「まかせて」と意気込み、ミュオンを背負った亮介は、ハイロのとなりに寝かせた。ふたりをならべても、まだひろい。丸太小屋のベッドは、誰かが同じ部屋で暮らしていた気配が残されていたが、今は、それどころではない。


「思うに」


 と、冷静に切りだしたのは、ノネコである。亮介とキールは、病人の枕もとにつき、「なに?」「なんだよ」と、同時に顔をあげた。ノネコは近くの椅子に飛び乗り、これまでの経緯を説明した。

「わたしがこの丸太小屋をたずねたのは、黒蛇に襲われた人間の安否を確認しておきたかったからで、よもや、水の精霊や、先祖がえりした半獣と出喰わすなど、想像の範疇はんちゅうを超えていたよ」

 緊急事態にそぐわない講釈に聞こえたキールは、ムッとして反論した。

「その話、ミュオンとハイロのおっさんがたいへんなときに、聞かせる意味あんのか」

「もちろんだとも。ふたりの容体ならば、安静だいいちさ」

「なにもしなくて平気なの」

 亮介が口をはさむと、ノネコは心得顔をしてうなずいた。

「正確には、わたしたちにできる治療はないと言うことさ。ハイロさんが倒れたのは、不慣れな肉体に蓄積された疲れや心労が原因ではないだろうか。しばらく横になっていれば、目が覚めると思うよ。ミュオンさんの不調に至っては、まず、精霊の身体構造を知る必要があるね。意識がもどり次第、本人に教えてもらうとしよう」

「それで手遅れになったら、承知しないからな」

 キールの脅し文句に、ノネコは「平気さ」と余裕の笑みを浮かべた。


★つづく
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