異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

文字の大きさ
上 下
23 / 171
第1部

第23話

しおりを挟む

 裏庭で用を足す(小便をする)ハイロは、微かな地面の振動を感じとり、神経を研ぎ澄ませた。なにかが、地中深くでうねっている。森に生息する肉食動物の多くは夜行性につき、昼間は活発に行動しない。もし出歩くとしても、気まぐれな狩りはせず、むやみに草食動物を襲ったりしなかった。現在、半獣属の頭数は減少しつつあり、大神オオカミのような絶滅が危惧きぐされる種族もいた。

 ハイロは腰紐をほどいて半裸になると、樽の貯水量を確認し、ニッシュのタオルでからだをいた。生活用水として使う湧水を運ぶ仕事はキールの担当であり、腕力のない亮介は、菜園の世話をするのが日課となっている(害虫と遭遇するたび、ギャーギャー騒がしいが、それも見慣れた光景となりつつあった)。


「これはまた、なんたること。おぬしのその姿、先祖がえりしておるではないか」

 
 バサッと、大熊の近くへ着地した大鳥オオトリシギは、人型の正体をあっさり見ぬき、「キシシッ」と喉をふるわせた。

「いやはや、なんとも立派な肉づきよ。どれ、少しばかり味見をさせてみなされ」

 カチカチとくちばしを鳴らすシギに、ハイロは「洒落しゃれにならん」と返し、えりを合わせ、腰紐を結んだ。ミュオンが用意した衣服は、なぜか和風だった。淡いムラサキの生地に、波のような、炎のゆらめきのような模様がぼかしてある。

「食事にありつけないのか」

 ハイロの問いに、シギは「ふぅむ」と、答えあぐねた。渡り鳥の主食となる植物は、森じゅうに芽吹めぶいている。だが、繁殖期のシギは、小動物のような高たんぱく質な獲物をって食べる必要があった。

「わしとて、無用な殺生せっしょうは避けたいのじゃが、森にきた目的は種の維持ゆえ、良質な栄養を摂取せねばならん」

 渡り鳥のシギが長い距離を移動してくる理由は、繁殖のためである。シギは半獣属だが、メスは、ほとんどことばを発しない。同じ種族でも、進化の過程にある境界線を越えてゆくものと、自ずと引き下がる祖先がいた。

 さらに、大鳥は長寿ちょうじゅの種族であり、シギのように老いた成鳥でも、体力などが極端に低下するわけではない。

 動物性のかてをほしがるシギがしびれを切らせ、亮介に襲いかかる場面を思い浮かべたハイロは、しかたなく貴重な干し肉を差しだした。バクッと食いつくシギは、満足げに「キーシッシッ」と笑い声をたてた。

「話のわかる人間は、たおれても、さぞや、おいしかろう、うまかろう。わしは、おぬしのような中途半端な半獣に出逢であったことがないのう。なんたる、不可思議よ!」

 大空へと一気に飛翔するシギは、いつもの調子で歌を口遊くちずさむ。

 
 めくるめく輝きのなか
 生まれてきたしるしに
 思い出の少年は
 血をそそ

 それはすぐそばに
 とつぜん、気づく

 運命を一変させる
 いのちの熱気
 
 もうひとりの自分が
 くらやみにいて
 おし黙る


 大鳥の歌は、ハイロの頭を悩ませた。シギの歌唱内容は、世界の未来を祝福するものが多いが、亮介の存在を知ってから、不穏な響きが含まれるようになっている。春は、森の至る場所で生命の息吹いぶきが溢れる季節だが、現存種の消滅も並行して進んでいた。

 先祖がえりを経験した大熊は、亮介といっしょに森で暮らすべきなのか、ひろい意味で気がかりだった。


「ハイロさーん!」


 なにもはかり知れない8歳の子どもが、笑顔で駆けてくる。あとから、ミュオンとキール、ノネコもついてきた。ハイロは、ささやかで平穏な暮らしぶりが、少しでも長くつづけばいいと、そう思った。


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...