17 / 171
幕開け
第17話
しおりを挟むふざけすぎたと反省しつつハイロの背中をずり落ちた亮介は、差しだされた焼き魚を受けとり、黙々と食べた。先に食べ終えたキールは、バケツを持って湧水を汲みにいく。
(……なんか、平和だなぁ。このまま、ずっと、森の一軒家で暮らすのも、悪くないかもしれない。……お父さんとお母さん、僕がいなくなって、心配してるかなぁ)
とくべつ家庭環境に恵まれていたわけではないが、育ててくれた両親が気にならないといえば嘘になる。唐突に息子が行方不明ともなれば、捜索願いくらい出されているだろうと思われた。
(幼児化した原因なんて、全然わからないけど、ミュオンさんもハイロさんもいるし、キールも友だちになれそうだし、深く考えても時間のムダだよね……。でも、この世界について、少しくらい誰かに説明してもらいたいなぁ。ハイロさんに質問したら、答えてくれるかな?)
昼食をすませたハイロは、庭の雑草をむしっている。草地のままでは、水はけが悪い。朽葉なども拾い集め、野菜の栽培に適した土壌をととのえていく。
「ハイロのおっさん、水を汲んできたぜ!」
「それは生活用水に使うぶんだ。樽にうつしてくれ」
「樽? 裏にあったやつか?」
「ああ。できれば満タンにしてもらいたい」
「いいぜ、往復してやる」
「たのむ」
ぼんやりする亮介にかまわず、ハイロとキールはてきぱき働く。
(……ハイロのおっさん、か。……そういえば、みんなの年齢って、いくつなんだろう)
青空に、まっ白な鳥が飛んでいる。鴫のような渡り鳥とちがい、長くは飛べないため、近くの樹木の枝にとまり、つばさを休めた。亮介は土を耕すハイロのところまでいき、声をかけた。
「ねぇねぇ、ハイロさんたちは、いくつなの? ミュオンさんもキールも、おとな?」
なれなれしい調子は、未成年の特権である。無学な子どもにたいし、おとなは寛容さを示す(示さない場合もあるため要注意)。
「おれは18だ」
「えっ、じゅうはち?(声が裏返った)」
キールがおっさん呼ばわりするため、もっと歳上かと思った亮介は、人間の年齢に換算すると、およそ倍になるとは知らなかった(ハイロは36歳である)。
「イタチは、おまえくらいじゃないのか。精霊は知らんが、数百年は生きるはずだ」
ハイロの言うとおり、キールは8歳だが、半獣属の年齢でいうと16歳が正しい。にわかに驚く亮介の表情を見たハイロは、「人間とは年齢の重ね方がちがう」と補足した。
「びっくりしたぁ。ハイロさんは、ホントにおじさんなんだ。……家族はいるの?」
やや無遠慮な問いに、ハイロは地面を掘る手をとめ、亮介の顔に目を据えた。灰色大熊の雌は、出産と子育てを単独でおこなう。雄は繁殖期に共寝した雌が妊娠しても、同じ穴で暮らすことはせず、子育てに参加もしない。むしろ、目的を達成したあとは、次の交尾相手を探すため、行動範囲をひろげ、森じゅうを動きまわる。その習性が、生態系の頂点(王獣)に位置づけられる所以でもあった。
めずらしくハイロが沈黙すると、亮介は首をかしげた。
(家族のこと、訊いたらマズかった?)
いつも無表情のハイロとはいえ、無口と無言の雰囲気は微妙に異なるため、亮介は「ごめんなさい」と、ひとこと詫びた。自らの行動がまねいた罪悪感は、正当化するよりも打ち消したほうが無難である。幼い見た目のわりに、心理的な配慮ができる亮介だが、さきほどのように背中へ抱きついてくる子どもっぽさもあるため、ハイロはふしぎな感覚にとらわれた。
★つづく
128
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる