上 下
16 / 171
幕開け

第16話

しおりを挟む

「ミュオンさん、ただいま」

「ミュオン、もどったぜ!」

 亮介とキールが丸太小屋に帰ると、水の精霊に変化の前兆が見られた。


「ミュオンさん、寝てる……?」

 
 寝室のベッドで仰向あおむいて眠るようにまぶたを閉じるミュオンは、背中の4枚の羽が消えていた。自由に消すことができるのかと思った亮介は、銀色の髪がさらに短くなっている点に気づき、枕もとまで歩み寄った。キールもあとにつづく。

「ミュオンさん、また髪を切ったのかな。きれいなロングヘアーだったのに、もう肩までしかない……」

っちまったンじゃねーの」

「え?」

 キールは、前にもミュオンが髪を食べた経緯いきさつを話すと、亮介は、ひどく驚いた。

「そんな無理をしてまで、ニッシュの樹皮じゅひを手に入れてくれたんだ……」

「リョースケのよろこぶ顔が見たかったンだろうけど、ぶっ倒れたら意味ねーよな」

「……僕のために」

 そのとき、亮介はズキッと頭の芯が痛んだ。なにかぼんやりとした光景が浮かんできたが、ミュオンが目を覚まし、意識は現実へと引きもどされた。


『リョウスケくん……』


 いつになく弱々しい声で名前を呼ばれ、亮介は不安になった。

「ミュオンさん、しっかり。僕のために無理ばっかしないで」

 病人を看病するかのように、亮介は無意識にミュオンの手をとった。ひやりとした感触に、ハッとする。

「あれ? ミュオンさんの手、透けてない!」

『……精気が、回復しつつあるようです』

「ホントに? よかったぁ!」

 へにゃっと気の抜けた顔で安堵する亮介を見たミュオンは、左手の感覚が復活し、物体をつかむことができるようになった。右手はまだ半透明のままだが、精霊に利き腕はないため、片方だけでもじゅうぶん役に立つ。ためしに、亮介の濡れた髪を撫でるミュオンは、満足そうに笑みを浮かべた。

「あのね、ハイロさんが池につれて行ってくれたんだ。こんどは、ミュオンさんもいっしょに行こう」

『池……、ですか』

「うん。大きな水たまり。きれいな水だから、きっと気分転換になるよ」

 亮介はうれしそうに語るため、ミュオンは承諾しょうだくした。少年の解釈は単純だったが、水の精霊といっても、生命活動に水源が必要なわけではない。庭のほうから、魚の焼けるにおいがしてくると、キールが「おっ!」と耳をたて、鼻をヒクヒクさせた。


 ハイロは、串に刺して焼いた魚を葉っぱの大皿にならべ、軽く塩をふる。駆けつけたキールは、「いいにおい!」といって、尻尾しっぽをフリフリした。亮介は寝室の窓から手ぎわよく調理するハイロを見つめ、少し胸の奥がムズムズした。

(……ハイロさんって、半獣っぽくないところあるよね。人間並みに器用だし、まさか、ホントにきぐるみとか? ……毛皮の下に誰か入ってるなんてオチ、あるのかな。だとしたら、どんなひとか見てみたい!)

 夢でみたツンツン頭の人型番長を思い浮かべた亮介は、急激に真相をたしかめたくなった。食事をとらないミュオンに「ちょっと行ってくる」と声をかけると庭へ向かい、土をかけて火を消すハイロの背中にガバッと飛びついた。

(うわ、やわらかいけど、あちこちツンツンしてる!)

「……なんだ?」

「な、なんでもないよ? ハイロさんはあっち向いてて!」

 肩越しにふり向かれ、一瞬ギクッとした亮介は、おおげさに前方を指さして、ハイロの気をそらした。キールは、おいしそうに魚を食べている。亮介は、ギュウッと腕に力をこめ、ハイロの骨格や中身、、の手応えをさぐってみたが、人間らしい部分は感じ取れなかった。

(……僕、ばかなことしちゃった?)

 勢いよくしがみついておきながら、亮介は青ざめた。


★つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

処理中です...