異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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幕開け

第10話

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 日が暮れて丸太小屋をあとにするハイロに、亮介は手をふった。

「ありがとうハイロさん、またあした」

 すでにうしろ姿は遠ざかっていたが、ハイロは片腕を軽く持ちあげてみせた。

 大熊オオクマ聴力ちょうりょくや臭覚はすぐれており、色の識別しきべつも人間より少しおとるていどにつき、森に生息する大型動物のなかでは、おそらく最強といえる存在だ(黒蛇は除外)。かつて、[クマ泣かせ]と呼ばれた大神オオカミは、最後のれ(数匹)が生きのびていたが、もともと警戒心が強く、滅多に姿を見せなくなっている。


「おっ、光華石こうかせきがあるのか。おいらがけてやろう」

 
 新生活の仲間入りしたキールは、光華石を見つけると、やや大きめなものを選び、手のひらの上で転がした。パン生地を丸くこねるようにクルクルまわすうち、ホワッと石全体が光りだす。それをテーブルのまんなかに置くと、夜のあいだは室内を照らすランプ代わりになる。石の大きさにより光源を放つ時間の長さが異なるうえ、いちどきりの使い捨てだが、光華石は森の至るところで収集しゅうしゅうでき、亮介とハイロは、あらかじめ数日分の数を集めておいた。

「月や星もきれいだけど、この石の光も、やさしい感じがする……」

 森で道に迷ったとき、足もとに光華石さえ落ちていれば、暗闇くらやみおびえずにすむ。

『その名のとおり、石のはなは、見るものを癒やす効果があるのでしょう』

 ミュオンは、ロマンチストである。

「ただの発光する小石だろ。そんなの見ても、べつに癒やされないね」

 キールは、リアリストだった。

 せっかくの雰囲気を台無しにして、「腹が減ったぞ!」と騒ぐ。亮介は「それじゃあ、お豆のスープをつくろう」と、はりきった。食事の準備に必要な調理器具といえば、びたなべや空き缶、割れた皿、ガラスコップ、ハイロが削った木製のスプーンとフォーク、火打石ひうちいしなどが手もとにある。天然の調味料(塩、砂糖、ゴマ、とうがらし、こしょう、はちみつなど)は、コルク栓のガラス瓶に詰めて保存してあった。

(なんだか、つい最近まで、誰かが生活していたみたいな感じ……) 

 丸太小屋は、ハイロによって案内された場所である。金属屋根やガラス窓のつくりは、あきらかに人間ひとの手が関与していた。森林域とはいえ、文明社会との境界線があいまいなようすもうかがえる。

(ハイロさんは、ここで暮らしていたひとが誰なのか、知っていそうな気がする……。だとしたら、そのひとは今、どこにいるのかなぁ……)

 亮介の手から、ポロッと皮つきの豆が落ちた。半獣属の大熊が、異なる種族の亮介を支援する利点メリット不明瞭ふめいりょうである。ただでさえ、彼は肉食動物だ。ハイロを無条件で信頼している亮介たが、相手がなにを考えているのか、あらためてふしぎに思った。

「やい、リョースケ。オシッコなら外でやれよ」

「ち、ちがうよ。そんなんじゃないよ」

「じゃあなんで、そんなに内股なんだ?」

 無意識にもじもじと腰をひねっていた亮介は、仕草しぐさまで幼児化してきた。もたつく小さな手や、短い足の感覚に少しずつ慣れてきたが、トイレ、、、は苦手だった。丸太小屋の裏に、カタカナのコの字で囲った穴がある。扉はなく、水道もない。地面に掘った穴へ排泄後、土をかぶせておく。いわゆる、簡易便所である。手洗いには、殺菌効果や消毒作用のある薬草ハーブを石鹸として代用する。真夜中に尿意をもよおしたとき、光華石こうかせきは必需品だった。


★つづく
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