8 / 171
幕開け
第8話
しおりを挟むミュオンとハイロは、8歳児の見た目に庇護欲が掻き立てられたのか、あるいは、危険性はないと判断したのか、人間の亮介を見ても嫌悪することはなかった。異世界にきて3日目、あからさまに敵視する半獣と対面した亮介は涙腺が崩壊し、号泣してしまった。
「うえぇ……っ、お願い、イタチさん……。僕を、追いださないでぇ……」
「な、なんだよ、そんなに泣くやつがあるか! お、おおげさだな……。だいいち、おいらは、おまえのために、ここまでニッシュの樹皮を運ばされたンだぞ? 遠くて歩き疲れたし、対価を要求する!」
「た、たいか……?」
話の本筋がズレたような気もするが、いつまでも亮介に泣かれてはイタチも迷惑につき、労働にたいする賃金を請求した。しかし、相手は異世界にきて間もないため、無一文である。亮介は涙をぬぐい、どうするべきか悩んだ末、「そうだ!」といって、丸太小屋へ引き返した。編みカゴから学ランを取りだすと、釦をひとつちぎった。
「へえ、なかなか、立派なねぐらじゃねーか。……あんな子どもが、ひとりで建てたのか? そんなわけないよなぁ、ミュオンはスケスケだし。全部、あっちの大熊が?」
『骨組みはもとからありましたよ。あのムッツリ大熊は、リョウスケくんが快適に過ごせるよう、手直しをしているだけです』
玄関の前で丸太小屋を見あげるイタチに、かたわらのミュオンが素っ気なく応じる。ハイロは近くの切株に腰をかけ、持参した干し肉をかじっていた。丸太小屋から出てきた亮介は、イタチに向かって、
「これをあげる」
と、学ランの釦を差しだした。イタチは警戒しつつ小さな手のひらをのぞきこみ、じっくり品定めした。
「ふうん、キラキラして、きれいだな。この穴に紐をとおせば、首飾りになりそうだけど……」
「それなら、ちょっと待ってて!」
亮介はベッドの藁をごそごそとあさり、釦の穴にとおしたあと、イタチの細い首にかけてあげた。
「わ、いいね、似合ってる!」
「そ、そうか?」
胸もとにキラリと光るアクセサリーに進化した金色のメッキ釦は、亮介にとって大切なものであったが、それくらいしか差しだせる対価が思いつかなかった。さいわい、イタチは気に入ったらしく、ミュオンに「どうだ?」と意見を求めている。
『とてもお似合いですよ。よかったですね、ふっふっふ』
と、笑顔で答えるミュオンは、自分の口もとに指を添え、亮介に向かってなにか合図した。亮介は首をかしげたが、すぐにピンときて、イタチに〈キール〉と名付けた。
「おいおい、このおいらに、名前をつける気かよ」
「う、うん、だめかな。キールはね、輝くって意味なんだよ。なにかの本に、そう書いてあったんだ」
イタチは「フンッ」といってそっぽを向いてしまうが、その横顔は、まんざらでもなさそうだ。その他大勢ではなく、とくべつに名前をもったイタチは、ミュオンから『丸太小屋で暮らしてほしい』とたのまれた。
「おいらが、リョースケと?」
『これは、身軽で勇猛なキールくんに、うってつけの役割なのです。リョウスケくんの安全を見まもりながら、われらといっしょに、楽しく生きようではありませんか!』
両腕をひろげ、明るい表情で主張するミュオンだが、ボサボサの毛先が気になるイタチは、人間の行動を見張るついでに、この場にとどまることを了承した。
「ホントに? 僕、ここにいてもいいの?」
「ただし、変な動きを見せたら容赦なく噛みつくぞ!」
ひとまず存在を受け入れてもらえた亮介は、むやみな緊張感から解放され、ホッと安堵した。
★つづく
396
あなたにおすすめの小説
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる