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愛 玩 人 体〔150〕
しおりを挟むユンクが再起不能となり、三船は医局を去ることになった。だが、その背中を見送る人物はひとりもいない。それぞれに、やるべきことがあるからだ。愛玩人体の実験は再びエイジだけとなり、延期された計画は打ち切りの見通しがついた。もとより、実験が終了次第、医局を辞職する予定だったバージルは、エイジと共に事務局へ挨拶をした。ふたりは三船の連絡を受けて地方へ向かい、新築の建物を見あげた。遅れて、ロイドも到着する。
「わぁ、とても素敵ですね!」
「だろ? バージルに色々と相談して、ショウゴに現場を任せて立ち上げた、その名も“生活支援団体”の本拠地だ!!」
必要な資金はエイジの口座から支払っているため、えへんッと、得意気に胸を張る。医局を出たら小さな病院を開業するつもりでいたが、次期当主がレインに代わると知り、急遽、計画を変更した。事務局の改革はレインのお手並み拝見とし、エイジは、地方で困窮に苦しむ人々の支援活動を始めることにした。もちろん、バージルと三船の協力があってこそ、実現した夢だった。ちなみに、ロイドを誘うと、すんなり承諾してくれた。いよいよ新生活に乗りだすエイジだが、いつかユンクも合流できるだろうと信じていた。これまでの無理がたたり精神が不安定となったユンクは、医局の治療から抜け出せずにいる。三船が見舞いに行くと、役に立てなくてごめんなさいと、泣きじゃくる日もあった。三船はユンクの回復を心待ちにしていたが、生活支援団体の流言を聞きつけたエアルとの再会という、よろこばしい経験をした。
「ミ、ミフネさん……」
「エアルくんじゃないか! 元気だったか?」
週にいちど、中庭で食事の配給を実施する列に、なつかしい3人組を発見した三船は、笑顔で手を振った。小さな子供(孤児)をあやすロイドは、建物内部で食材を仕込むエイジに「彼氏が来てますよ」と、声をかけた。
「サンキュー、ロイド!」
エイジは白いエプロン姿のまま、裏口のほうへ走っていく。ドアを開けた先に、地方を流離う天才技士が立っていた。
「よう、レオンも食ってけよ。きょうは野菜カレーなんだ。うまいぞ!」
「ああ。たまにはご馳走になるか」
レオンは裏口から建物の中に入ると、エイジのエプロン姿に苦笑しつつ、上膊を引き寄せて口唇を重ねた。ふたりの足は自然と寝室へ向かい、服を脱いで抱き合った。バージルの次に好きな男と、寝台で濃密な性交に及ぶエイジだが、手の届かない存在だからこそ、いちばんに医師(現在は団体の代表取締役)を愛し続けた。
それから数年後、学棟の壇上に立つレインは、分厚い資料を両手に抱え、会場を見まわした。
「──今から皆さんには、長い話を聞いてもらうことになります。これは、愛玩人体となったひとりの少年が管理者の医師と共に残した、生命科学倫理についての研究結果です。どうか最後まで、お付き合いください」
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