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愛 玩 人 体〔124〕
しおりを挟む予約時間前に、利用客が待つ建物脇へ到着した三船は、エンジンを切った車両の中で、ユンクの置かれている状況を改めて説明する。
「いいか、あくまで相手の目的は性的な快楽を得ることだ。そのために高い金も払っている。下手な要求に無理してこたえる必要はないが、なるべく相手の機嫌を損ねてくれるなよ。……どうしても我慢ならなきゃ、この端末を渡しておくから、連絡をよこすんだ」
三船は、助手席で体育座りをしているユンクに、小型の通信ツールを手渡した。ユンクは今晩が初仕事につき、不測の事態に備えるためである。愛玩人体の役割と必要性をいくら真剣に述べても、ユンクは「ふわぁ~」と欠伸をして、真面目に聞き入れなかった。その容姿が幼く見えても、すでにユンクは経験者でもある。本人の表情も、三船より落ちついていた。
「……そろそろ時間だ。行くぞ」
「は~い」
三船は運転席のドアを開け、建物の最上階を見あげた。中心部に立つ高層住宅の家賃は、医局で働く限られた上層部の人間でなければ、到底支払えない。愛玩人体による性サービスとは、金持ちの道楽にすぎないのではと疑いたくなったが、ユンクには口が裂けても云えない。大人の身勝手な都合で、実験体となった少年の気持ちなど、誰も理解できやしない。三船は、ユンクの肩に手のひらを添えると、野蛮な男が待つベッドルームまで案内した。
「……それでは2時間後に引き取りに来ます。どうぞ、お愉しみください」
三船は管理者として、頭を下げる。願わくば、乱暴な真似は望まない。だが、利用客の中年男は、待望の愛玩人体を前に興奮気味で、今にもユンクを押し倒しそうなほど息が乱れていた。バタンッと、閉ざされたドアの向こう側に、三船の居場所はない。これからは、ユンクひとりで対処しなければならなかった。
「……ユンク。頼むぞ」
不安な気持ちが隠せない三船は、眉をひそめるが、少年の適性検査に問題はなかった。順調に性行為が済まされるまで、信じて待つしかないのだ。
「……セルジュ。おまえは、どんな気分だった? AZが低俗な連中に抱かれるたび、平静でいられたのか? ……とんでもない話だ」
暗い車内に戻った三船は、ステアリングを握りしめ、フロントガラスに広がる夜の闇を見つめた。始まったばかりだが、こんな計画は早く終わって欲しいと、願わずにはいられなかった。
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