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愛 玩 人 体〔116〕
しおりを挟むエイジとロイドが研究室で恋話をする頃、事務局へ向かう白衣の背中を呼びとめる者がいた。
「バージルさん、こんにちは」
隣接する保健局で働くオーバンである。バージルは以前、彼の双子の兄にエイジの健康診断を委任したことがあった。そこへ偶然やって来た三船により、オーエンの秘めた感情が露見する。エイジは、うっかり八つ当たりの被害に遭ってしまった。(時間軸=愛玩人体〔57〕参照)
「そういえば、そろそろ実験対象の2回目の診断書を制作する頃合ですよね? 書記室にいる兄と連絡を取りますか?」
オーバンはスーツの内側から通信用の端末を差し出そうとしたが、バージルは軽く手をかざして断った。身体検査は、医師でも可能である。いくらか人格に問題があるオーエンに任せることはせず、次はバージル自身が診断する予定だ。ちなみに、精液検査も項目に含まれているため、エイジがあたふたする光景が目に浮かんだバージルは、軽く肩をすぼめた。
「……前回は保健局の職員に依頼したが、それはあくまで、わたしひとりでは数値の誤差が確認できないからだ。試料を受け取った以上、次からはわたしの仕事だ」
「そうでしたか……。なんだか、色々と大変そうですね……」
医師の力になりたかったオーバンは、しゅんと肩を落とす。かつて、患者としてバージルの治療を受けたことがあるオーバンは、双子の兄よりも医師を尊敬していた。バージルは時間で行動する必要があるため、「失礼するよ」と云って、先を急ぐ。オーバンはペコッと頭を下げ、医師の背中を見送った。
医局の敷地で一番の床面積を誇る事務局は、地上に建っている。バージルや三船の研究室は地下に設置されており、薄暗い廊下に射し込む月明かりはない。もとより、活動の多くは陽が沈んでから本番となる。今夜の客は50代の幹部で、性器直入ありだ。エイジへは、事前に利用客の情報をまとめたファイルを渡すようにしているバージルだが、愛玩人体を性欲の捌け口にする年代の多くは中年層につき、サービス提供時から目ぼしい変化は見られない。最近では、愛玩人体に求められる性行為内容が過激になってゆく始末である。バージルは、第2号の始動を懸念した。
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