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愛 玩 人 体〔111〕
しおりを挟むバージルは何を知っているのか。改めてエイジがそう考えた時、尊敬する医師は、むしろ弱い存在に捉えることができた。なぜなら、医師もまた、驚くほど多様で変動する社会の中に身を置く、ひとりの人間である。
「エイジ、大丈夫か」
「……ん、なにが?」
「……いや、なんでもない」
利用時間が過ぎ、使用済みとなった愛玩人体を迎えにきたバージルは、車両のステアリングを操作しながら、妙におとなしいエイジを気にかけた。助手席の背もたれに寄りかかり、瞼をとじている。少年の呼吸は安定していたが、首すじに鬱血の痕跡がある。バージルは赤信号でブレーキを踏むと、エイジの首すじへ、すっと指で触れた。冷めた肉体にバージルの体温を感じ取ったエイジは、バチッと瞼をあけると、「な、なに?」と、過度に反応した。時刻は遅いが、街灯や信号機の明かりが車内を照らしている。バージルの双瞳に、エイジの顔が映り込む。
(……あ、……こ、これで、いいのかな?)
エイジは再び瞼をとじて、バージルの口づけを受けとめた。柔らかい舌を絡め合っていると、腹底が熱を帯びる感触に、エイジは「ふっ、あっ」と、気息を漏らした。信号の色が青に変わると、バージルは何事もなかったかのように向き直り、車両を発進させる。
(な、なんだ、なんだ? 今のって、どういう意味だよ……?)
バージルと口唇を重ねる経験は何度もあるエイジだが、いつも唐突すぎるため、口づける理由が分からず、あとから色々と悩ましくなった。
(……バージルがキスしてくるの、久しぶりじゃんか。……これってやっぱり、ただの健康チェックの一環なのか? でも、さっきのキスは、やけに熱っぽかったような……)
エイジは下半身が暴走しないかハラハラしたが、なんとか無事に研究室へ帰還した。シャワールームで汚れた躰を真っ先に洗い流すと、作業デスクにつくバージルに声をかけた。
「なぁ、話してもいいか?」
医師は振り向かずに「どうぞ」と返事をする。エイジは近くの椅子に座り、白衣の背中を見つめた。
(……もう、がまんできそうもない。バージルに、オレの気持ちを伝えておきたい)
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