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愛 玩 人 体〔105〕
しおりを挟む互いに理想の状態を求めようとする思いは、果たして恋愛といえるのだろうか。永遠に変わることのない欲望こそ、充足感を得ようとする理性の営みである。つまり、自分に欠けているものを手に入れようと追い求める情熱こそ、愛の本質にほかならない。この考えの根底には、性的な欲望も含まれている。
だが、人間には情念があり、決して、理性のみで物事を判断しているわけではない。情念とは、感覚に基づく印象や、観念が媒介となって生じるものである。いったいどれほどの人間が、愛と憎しみ、快と不快といった情念に苦悩していることだろうか。因果律を否定し、懐疑主義へたどりついた者こそ、ある意味、この社会において必要な性質を持つ人間なのかもしれない。
レインの結婚式に参列したエイジは、ようやくふたりきりで話す時間に恵まれた。華やかな演出で賑わう会場を離れ、控え室へ案内されたエイジは、カムフラージュ用のメガネを外した。
「花嫁を残してきて、大丈夫なのか?」
「少しくらいならね」
「レインさん、なんか変わった?」
「そう見えるかい」
「うん。服装のせいじゃないよな。なんて云うか……」
「強くなった?」
「うん。そんな感じ!」
医局の次期当主が確定しているマレインにつき、これまでのような自由は制限される。まして、愛玩人体と密会するなど、あり得ないことだった。レインは窓際へ佇み、カーテンに指を添えて振り向いた。
「……エイジくん、ぼくはね。いつか事務局を改革してみせるよ」
「なんだよ急に。事務局って、あのガランとか云う男がいるところだよな?」
「ふふ、そうだよ。医局を伏魔殿にする連中には、出ていってもらおうと思う」
「……すごい計画だな。レインさんに、そんな責任はないはずじゃ?」
「逆だよ。ぼくは今まで、自分にとって不都合な事柄から逃げてきたんだ。本当は挑むべき立場だったのに、狡い人間だった……」
「そんなことない。レインさんは、いい人だ!」
「エイジくん……」
レインの落ち込む表情を見たエイジは、励ますつもりで声高になる。だが、青年が胸の奥に秘めた事実を吐露する機会は、今しかない。たとえ少年の信用を失うことになっても、レインには、すべての闇を清算する必要があった。もういちど、エイジと心から打ち解ける日を願って。
会場に流れる明るい音楽が、控え室まで聴こえてくる。エイジはレインの顔を見据え、思いきって問う。
「……レインさん、教えてくれ。どうしてそんな話をするンだよ。もしかして、全部オレのためなのか?」
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