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愛 玩 人 体〔96〕
しおりを挟むある医師(バージル博士)の言葉より。
「共に免責し合う主義〈co-immunism〉とは、社会に生きる以上、人間は自分で人生の意味を見つけなければならない。ひとりひとりの考えは間違っていたとしても、それをすり合わせて受容し、誠実に対処する能力が求められている。個々人の意思決定を重視する倫理的な社会こそ、新たな主体となるべきであろう。ただし、内部の差異は、転換を試みる必要があることも忘れてはならない。我々が目ざすべきは、認識や思考の同一化ではなく、理解を示す精神力の向上である」
※ ※ ※ ※ ※
群惑Xでは、謎の病原体により、人間の(とくに女性の)生殖機能が低下し、少子化傾向にあった。医局による新薬の開発は遅延していたが、愛玩人体という性サービスを提供する試作品の運営は順調だった。これまで、第1号としてその役目を担ってきたAZだが、ここにきて、ユンクという第2号の登録と第2研究室の設置が決定した。さらに、ユンクの管理者は(エイジと肉体関係を持った)三船将吾という男である。それにより、比較対象としてエイジの務めは1年延長された。しかし、エイジはまだユンクとの面識はなく、三船が管理を担当する事実を知らずに過ごしていた。
「……ふわぁ~あ、眠てぇなぁ。そろそろ寝るか~」
気密容器と呼ばれる愛玩人体専用の寝床で横になるエイジは、数日後に控えたレインの挙式について考えると、目が冴えてしまう。
(……レインさん、本当に結婚するンだ。ロイドから聞かされた時はびっくりしたけど、これって普通のことだよな。……性交だって、男と女じゃなきゃ、子供が生まれないわけだし。……なんでオレ、こんなにモヤモヤしてンだ。傷心のつもりかよ? オレは、レインさんをフった側なのに、バカじゃねーの……)
レインの実兄より手渡された招待状を見つめながら、エイジは深い溜め息を吐いた。レインの結婚式に出席できるようになったが、素直によろこべない自分に呆れた。ほんの少し、羨ましかったのかもしれない。たとえ望まない結婚だとしても、誰かと支え合って暮らす生活を手に入れた人間は、きっと幸福になる権利があるはずだ。エイジはそう思った。
「オレもいつか、バージルと一緒になれるかな……」
大好きな男により、他人のベッドルームへ送り届けられる日々が続くエイジだが、肉体への未練と執着は疼に放棄しているため、以前ほど現状を悲観的に捉えておらず、結局、自分が何者なのかという原点に戻り、そればかり気になった。
+ continue +
※[愛玩人体]をお読みくださり、誠にありがとうございます。本日より執筆を再開しました。たいへん長らくお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
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