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愛 玩 人 体〔90〕
しおりを挟む保健局で診断書を受け取ったバージルは、再び研究室へ戻った。専用のIDカードでドアを開けると、すぐさまエイジが走り寄ってきた。
「バージル! おかえり! それと、レインさんが結婚するンだって?」
医師は中央テーブルの椅子に座るロイドを、ちらッと見た後、エイジへ視線を落とした。「ああ、そうだ」と短く答え、作業デスクへ移動する。エイジは素足につき、ペタペタと足音を立てながらついてくる。
「なんで、もっと早く教えてくれなかったンだよ」
「キミが知る必要はなかろう」
「ひでぇよ、それ! レインさんとオレは顔見知りじゃんか」
正確には商品と利用客の間柄であり、バージル的にはその程度の関係である。わざわざ報告の必要はないと判断した。それでも、エイジにとってレインの存在は小さくないため、知らずにいたことが悔しかったらしい。
「そこで相談なんだけどさ、オレ、ロイドと一緒に贈物がしたいンだ。お店に行きたいから、研究室から出してくれよ」
エイジは愛玩人体であることを忘れたかのように、気落に喋る。医師は、エイジへの接し方を意図してあらためた。
「許可できない」
と云うバージルに、エイジは粘り強く食い下がる。
「少しだけでいいからさ。レオンさんにあげるものを、ちゃんとこの目で見て、しっかり選びたいンだ。頼むよ、バージル」
「あきらめろ」
「なんでだよ。もしかして、オレが逃げるとでも思ってる? そんなことしないし、バージルが見張ってればいいだろ」
「マレインを祝いたければ、金一封を用意すればいい」
「だから、お金とかじゃなくて、ロイドと何かを買って渡したいンだってば」
バージルとの会話が噛み合わないエイジは、ロイドに助けを求めた。
「なぁ、ロイドからも説明してくれよ。せっかくレインさんがめでたいってのに、何もできないのは、つまらないだろ」
エイジはごく一般論を述べたが、少なからずレインの事情を噂で知るロイドは、曇り声になる。
「AZくん、ごめんね。自分の考えが甘かったみたいだ。キミの外出許可は難しいようだから、この件は、なかったことにしようよ」
「え? ええ!? なんでだよ! おい、バージル! なんでだめなンだよ!」
ロイドの加勢が期待外れに終わり、エイジはひとりで困惑した。作業デスクにつく医師は、もはや何も云うことはないとばかり、目を合わせてくれない。この状況に納得できないエイジは、ロイドに詰め寄った。
「どうしてだよ、ロイド。レインさんに贈物をしたいのは、ロイドも同じ気持ちだろ? なんで急にやめるンだよ」
「……こう云う表現はよくないけれど、あのね、AZくん。マレインさんは、婚約者とは仲が悪いみたいなんだ。もともと、本家と分家が勝手に決めた縁組みで、妊娠のことも、マレインさんはよろこんでいない様子らしくて、祝う側としても、少し気の毒に感じる部分があるんだ」
「そんな、それじゃあレインさんは、無理やり、結婚させられるってこと!?」
エイジは、レインが自殺未遂をした理由はこれだったのかと思った。あまりにも衝撃的な事実に立ち尽くす。
(そんな……、そんなのって、ツラすぎるだろ。レインさん大丈夫かよ……)
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