愛 玩 人 体

み馬

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愛 玩 人 体〔84〕

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 三船は、要人Bの案内でユンクと共に見たこともない高級レストランの席についた。献立メニューの文字も外来語につき、隣に座るユンクは首を傾げている。さいわい、個室につき、3人の様子に目を留める者はいない。
 三船は、かろうじて文字を読むことができたので、わかる範囲で料理を注文した。ユンクから、肉はあまり得意ではないと聞かされていたが、要人Bは食べ盛りな子供には肉料理が一番などと云って、少年の分まで注文をすませた。先に飲み物が運ばれてくる。要人Bは昼間からワイングラスを手に、「それでは、医局と愛玩人体の未来を祝して乾杯」と云う。三船は祝辞に疑問を持ちつつ、上司に合わせて乾杯をする。ユンクはストローを使って、コップのメロンソーダを呑む。
 
 妙な食事会となってしまい、三船は言葉が出てこない。むしろ、ユンクとふたりきりで話がしたいと思った。まさかの少年本人による愛玩人体宣言を受け、どうにか説得して撤回させるべく、頭を悩ませた。ところが、苦心する三船をよそに、あろうことか、要人Bは、ユンクに愛玩人体の説明を始める。

「わが群惑コロニーでは、感染確率の高い病原体ビールスの蔓延により、各地で女性への健康被害が報告されている。むろん、新薬の開発をあきらめたわけではないが、当局では画期的エポックメーキングな対策を打ち出した。それは、愛玩人体という性サービスの提供である」
 
 ユンクは床につかない脚をふらふらさせ、あまり真面目に聞く様子はない。だが、要人Bは続ける。
「ユンクと云ったね。キミは、そのカラダを使って成人男性をよろこばせるだけでいい。愛玩人体の目的は、個人の嗜好による性的な欲求や不満を解消することだ。難しいことではなかろう」
「局長、ユンクは……」
 要人Bの話は具体的な活動内容におよぶので、三船が口をはさむと、ユンクからさえぎられた。
「それって、これまでのボクと変わらないや。おなかが減ったら、お金を持っていそうなひとに声をかけるんだ。生殖器アソコをしゃぶってあげたり、ボクの内部なかにいれてあげたり、それだけで、みんなすごくよろこぶから、けっこうたのしいよ」
「ほう。キミは幼いわりに達観しているね」
「ユンク、あまりしゃべるな」
 三船は小声で注意したが、ユンクは得意気に要人Bを見つめ、胸を張る。
「おじさんのも、しゃぶってあげようか?」
 ユンクの突飛な発言に、要人Bは「ここでかい?」と聞き返す。ユンクはテーブルクロスをめくり、要人Bの下半身へ目を向ける。
何処どこだって、できるよ。ボクは今すぐ全裸ヌードにだってなれる」
胆力きもがあるな」
 要人Bはそう云って笑みを浮かべたが、三船に目配せをした。公的な場での教養が必要である。そうとでも云いたいのだろう。いくらか険しい表情をしてみせ、少年の軽率な態度を無言で非難する。三船はユンクにきちんと座るよう云い、運ばれてきた料理の皿を受け取った。

「わっ、これってお肉?」
霜降しもふり肉だよ」←要人B
 見たこともない鮮やかな色をした肉に、ユンクは目を丸くした。要人Bは少年にフォークとナイフを差し出すが、ユンクが手掴みで口へ運んでしまうと「下品だ」と云って首を横に振る。最終的に、ユンクは要人Bのこのみとはならなかったが、伸びしろに期待して愛玩人体は適職と判断がくだされた。


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