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愛 玩 人 体〔78〕
しおりを挟む昼食を調達しに出掛けたバージルが研究室へ戻ってくると、エイジは得意気に気密容器の仕組みをロイドに説明していた。
「このスイッチを押すと中の気圧が少しあがって、無菌室みたいな感じになるンだ。だから、裸身で寝てても風邪を引かないンだぜ」
「へぇ、そうなんだ」
「んで、こっちのスイッチを押すと蓋が開くんだ」
「蓋を閉じて、息は詰まらないの?」
「平気だよ。ほら、下に通気孔があって、完全な密閉空間とは少し違うンだ」
「すごい技術ですね」
「だよな。開発室にいるレオンって男が造ったンだってさ」
「レオン……?」
「ああ、正式にはマレオンって云うんだ」
「マレオンさんなら、自分も存じています。メドウス家の長男ですからね」
「有名人なのか?」
「医局の創立者の血筋だよ」
「げッ! やっぱり!? いつもエラそうな態度だから、そんなことだろーと思った。あッ、じゃあ、レインさんもか!」
「マレインさんのことなら、そうですよ」
「あのふたり兄弟のくせに、性格は全然似てないよな」
「自分はマレオンさんとの面識はありませんが、弟のマレインさんなら、学棟で見かけたことがあります。挨拶ていどの言葉も何度か交しました」
「ああ、そうそう! レインさんは、バージルの講義をよく聴いてたみたいだ」
「自分もです」
「ロイドも?」
「ええ。教授ほど優れた講義をなさる方は、他にいません」
「だってよ、バージル。すごいじゃんか!」
食事用のテーブルへ買ってきた惣菜を並べる医師へ、エイジが首を伸ばして云う。ロイドとの会話がはずみ、研究室内の雰囲気は明るい。医師は「それほどではないよ」と謙遜するが、ロイドは即座に否定した。
「いいえ、とんでもない。バージル教授は、この世で唯一無二の存在です」
「ゆいいつむに?」
「同じものがふたつとない喩えですよ」
「それなら、オレも賛成!!」
エイジが手をあげて云うと、ロイドも便乗した。さすがの医師も困惑したように、ふたりを交互に見つめた。
(返答に悩むバージルの顔、超めずらしい……!!)
エイジは、ロイドとの会話が楽しいと思った。ふたりの年齢は十以上離れていたが、同一人物を思慕するため、なにかと意見が通じやすい。さらに、バージルが用意した昼食を見たロイドは、嬉しそうに声をあげた。
「これは、グランディアの冷製パスタではありませんか!」
エイジも食卓へつき、「グランディア?」と聞き返した。
「女性に人気で、平日でも行列ができるお店なんだ」
そう云われてみれば、医師が戻るまで1時間は経過している。バージルが女性客の間に立って並ぶ姿は、ちょっと想像しにくい。エイジの頭の中を見透かしたバージルは、「事前予約したものを取りに行っただけだ」と告げる。
(ってことは、きょうは、オレにロイドを紹介するつもりで連れてきたンだな……)
バージルは多くを語らない性格につき、エイジなりに解釈した。
「バージル教授は食べないのですか?」
テーブルにはふたり分の皿しかないため、ロイドが訊ねた。バージルは「ああ」と短く応じ、エイジの顔へ目を向けた。
「わたしは2時間後にまた来よう。ふたりで食事をすませなさい」
やはり、バージルは同席しない。あらかじめそんな気がしたエイジは、小さく頷いた。再びロイドとふたりきりになると、こんどは別の話題で盛り上がった。
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