愛 玩 人 体

み馬

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愛 玩 人 体〔77〕

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 バージルに案内された地下の研究室で、ロイドはエイジと対面した。医師が専用のIDカードを使い扉を開けた時、エイジは気密容器カプセルの底で昼寝をしていた。少年は全裸ぜんらでいるため、ロイドが近づくのを制したのち、仮眠室からシャツを手にして戻る。

「エイジ」

 医師は、少年の肩を揺り動かして声をかけた。何度目かの呼びかけに目を醒ましたエイジは、シャツを差し出される。
「……あれ、バージル? 忘れもの?」
 きょうはもう顔を見られないと思っていたので、エイジは内心よろこんだ。シャツに袖を通すと、医師からロイドを紹介された。

「初めまして。自分はロイド▪アイン▪ヴィリディスと申します」 
 両手を前で重ね合わせ、深々と頭を下げられたが、エイジは一瞬、不機嫌になった。
(なんだよ、こいつ、、、。バージルと、どういう関係のヤツだ?)
 ロイドは女装した男であるが、エイジは完全に女性だと思い込んだ。
「愛玩人体のAZエイジだ。未成年なので酒類はすすめないように。それ以外の制限はない。キミの自由に扱いなさい」
「え? おい、バージル!? このひと客なのか!?」
 まさかの、女性利用者の登場である。少年の勘違いを、バージルが正した。
「彼は客ではない。キミの話し相手となる男性だ」
「男性……?」
 エイジは無遠慮な眼差まなざしをロイドに送った。確かに。よく見ると喉仏のどぼとけがある。身長もエイジより数センチ高く、肩幅もあった。声も男性そのもので、今更ながらエイジは早合点を認めた。

ロイド、、、って、女装が趣味なのか?」
 
 つい、呼び捨ててしまったが、訂正するのも面倒なので気にしないことにした。バージルを誘惑するため女性下着パンティーを身につけたことがあるエイジは、それほど違和感を憶えなかった。ロイドは少し困った顔をして、控えめな声を発した。
「生まれながらにして、男性機能ばかり発達してしまいましたが、AZくんは、自分が女性だと云ったら、信じてくれますか」
「信じるもなにも、ロイドがそう思うなら、それでいいことだろ」 
 エイジは、ロイドの悩みなど深く考えずに答えた。医師は腕時計で時刻を確認すると、昼食の買い出しへ行くと告げ、いったん研究室を去った。ロイドとふたりきりになったエイジは、中央テーブルの椅子に腰かけた。ロイドは室内を見まわし、バージルの作業デスクに歩み寄る。

「このような地下で、愛玩人体の実験が進められていたのですね」
 
 やや呆れた表情になるロイドに、エイジは気安く応じる。
「そうだよ。オレだって最初はびっくりしたし、意味不明だったぜ」
「それは、どういうことですか? あなたは、対価を受け取る代わりに、愛玩人体になったのでは?」
 金銭カネ目当てだと思われたのは心外につき、エイジは「そんなンじゃねーよ」と語気を強めた。本人の意思とは関係なくラベリングを施術されており、不本意な状況でも逃げようがない。エイジはこれまでの経緯を(話せる範囲で)説明した。一方的な偏見を払拭ふっしょくしたロイドは、少年に詫びた。
「すみません。あなたの事情は思っていたより複雑でした」
「まあな。それはそうなンだけど、バージルが色々と面倒をみてくれるから助かってるンだ」
 エイジが笑うと、ロイドも自然な笑顔を見せた。
「バージル教授にお世話をされては、迷惑をかけられませんね」
「それなんだよ。あいつの立場を考えると、オレもしっかりしなきゃって思えてさ!」 
 エイジとロイドは、バージルを誇らしく思う気持ちが一致した瞬間、意気投合いきとうごうした。


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