70 / 150
愛 玩 人 体〔70〕
しおりを挟むコンプレックス(複合した感情のしこり)… 苦痛や嫌悪感は、無意識に閉じ込められる。だが、刺激語を与えた場合、感情的な混乱を引き起こす原因となる。過度な刺激に耐性を持つ人間は少ない。社会生活から受ける影響は多様な性格(character)を生みだすが、その人の意識(思考·感情·感覚·直観)を、無視してしまいかねない。人の行動や思考には、その人なりの傾向があり、偏見や思いこみから疎外してはならない反面、無意識の動的な変化はとらえがたく、人間像はむやみに対立関係にある。固定観念の世界こそ、多くの人々のコンプレックス(complex)を刺激している。
愛玩人体の可能性を最大限に開発することが、バージルの最終目的である。マンネリズム(同じ傾向が繰り返されて、新鮮さを失うこと)だけは避けたい。要人Bの計略にハマり、エイジを抱いた三船こそ、少年が新たな生活環境へ進む分岐点となった。
シャワーを浴びた三船は、身装を整えて研究室をあとにした。バージルは何も云わず、その背中を見送った。エイジは気密容器に閉じ籠り、思うように動けずにいる。今更、三船に抱かれたショックで困惑中だ。この次に会った時、どんな顔をすれば正解なのか、まるでわからない。バージルは、少年がいつもの調子を取り戻すまで、声をかけずに過ごした。
エイジの動揺をよそに、三船はその日の内に中心部を離れており、しばらくの間、行き合う心配は無用だった。自ら運用管理を担当する人材をスカウトするため、地方へ自動二輪車を走らせた。
三船が〈第二の愛玩人体〉としてサポートできる相手は、不特定多数の人間とすでに性的な経験を持つ〈エアル〉しか思いつかない。これまで、いちども男と寝たことのない人間を選ぶ真似は、とうてい不可能である。かといって、エアルなら問題がないわけではない。三船にとって、苦渋の選択である。また、ストリートライフの人間は、意外と社交性が高い。ひとたび医局に登録が決まれば、外向的な性格でなければ務まらず、かつ、避けられない性行為の日々が待っている。エアルに対する罪悪感は、胸へ秘めることにした。
愛玩人体には月給が発生し、満期の際は、老後の生活に困らないほどの報奨金が医局によって支払われる。エアルが面倒をみる仲間なら、たとえ幾人いようとも、贅沢をしなければ平穏に暮らしてゆける金額だろう。不安定な収入で世の中を生きるエアルなら、協力関係を結べるのではないかと考えた。
しかし、空き家へ到着した三船は、もぬけの殻(愛玩人体〔52〕参照)となった室内を見まわすと、肩をおとして落胆した。
「……いったい、何処へ消えたんだ」
エアルは、三船に抱いてしまった感情から逃れるため、ずいぶん前に拠点とする町を変えていた。さらに、三船が追ってこられないよう、空き家には何ひとつ痕跡を残さなかった。
+ continue +
1
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説




サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる