愛 玩 人 体

み馬

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愛 玩 人 体〔51〕

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AZエイジについて。中心部愛玩人体計画セントラルあいがんボディプロジェクトにおける価値体系の考察と中間報告。〕

〔自己矛盾にもかかわらず、AZは避けられない事物に尽くす能力を持ち、その身を捧げている。目立った問題行動はなく、管理者であるバージル▪ファン▪セルジュに対して、忠誠心さえ感じるばかりである。〕

〔これまで排他的な分野であった、デリバリーヘルスボーイの必要性と連続性は、今後も慎重に議論されるべきであり、対象の精神状態や人格の分裂は普遍的な要素である。しかしそれが、対象の健康さを意味することも忘れてはならない。〕

〔自分を使いわけて、状況に適応性を示す個体は、思考能力に統一性を持たない。故に、病的な場面に陥った場合の介助ケアは、必須事項である。いわゆる、アイデンティティの安定をサポートし、自我の崩壊を未然に防ぐ対策を徹底することが重要である。〕

〔結論を急ぐことはできない。社会には善良な利用者だけでなく、悪質な行動を考える者が存在するため、我々運営側が、まずもって、外的な障害を排除しなければならない。尚、比較対照のない実証実験につき、例外は認められない。〕

 エイジと三船が居間リビングへ戻るまでのあいだ、バージルは自身のレポート内容に目を通していた。これまでのエイジの動向を客観視することが重要であり、いっさいの私情は禁物である。バージルの役割は、エイジの保護ではなく活用にある。愛玩人体の社会進出が最終目的であり、医局オゼの計画は決定事項だった。社会心理学的諸研究の日々は、あと1年近く残されている。

 居間へ引き返してきた三船は、親指を立てると、トイレのあるほうを示して云う。
AZエイジなら大事はなさそうだ。至って健康だな、ありゃ」
 腹部をさわられて勃起したエイジは、後始末をしてから戻ってくる。
「お待たせ。腹が減って死にそうだ」
 エイジはバージルの正面へ座ると、テーブルに並ぶビーフサンドを手にして、ひと口かじった。少年の隣に腰をおろした三船は、ひとり分のチキンスープをこぼしてしまったので、自分用に取り分けた皿をエイジにすすめた。
「オレはいいよ。ショウゴがえって。楽しみにしてたンだろ?」
「なら、半分ずつべるとしよう」
 三船の提案を聞き容れて、エイジは先にスープを飲んだ。残りを三船が食べる。バージルはふたりのやりとりをながめ、ひそかに微笑びしょうした。
「……ショウゴ、痛くないか?」
「うん? なにがだ?」 
「さっき、殴ったトコ、……その、ごめん」
 エイジが素直に謝ると、三船から頭を撫でられた。
「おまえって、やっぱりかわいいな」
「ああッ、もう! また云ったな!!」
「本当のことだから、仕方ないだろう」
「うるさい、黙ってこれでもえ!」
 エイジは食べかけのビーフサンドを、三船の口の中へ押し込んだ。
「わかった、わかった。危ないから、もう少し離れろAZエイジ
「なにが危ないンだ?」
「うっかり、手を出しそうになるから」
 頭の回転がにぶいエイジは、三船の下心を見抜けない。ストリートライフ者のエアルを抱いたことで、三船はエイジに対して欲情が可能であり、その気になれば力ずくで性交できた。むろん、好意がなければそのような発想には至らない。三船は、エイジの存在をこのましくとらえていた。勘のするどいバージルは、三船に芽生えた感情に気づいた。

 3人で食事を終えた後、エイジは満腹中枢が満たされて睡魔に襲われた。絨毯カーペットの上に寝転がると、そのまま熟睡した。台所キッチンに立ち食器洗いをしていたバージルは、三船に目配めくばせをした。それを承知して、三船はエイジの躰を抱きあげると、寝室へ運んだ。

 居間でバージルとふたりきりになった三船は、いちど深いため息を吐いた。躰を使って得た情報を伝えるため、再び腰をおろすと、バージルは、マグカップを2個用意して珈琲を淹れた。時刻は午後3時を過ぎている。
「ふう。……なんかよ、AZアイツを見ていると、助けてやりたくなるもんだな」
 三船はバージルの手からマグカップを受け取り、自嘲気味に笑う。
「それにしても、おまえ。よくもこんな仕事をやれているな。おれなんか、たったいちどAZエイジを客に引き渡しただけで、頭がおかしくなったってのによ」
「キミは真面目な性格だからね。わたしは元から気がれている人間だから、多少のことではくじけない性分しょうぶんなのさ」
「おまえは、AZエイジを抱いてみたりしないのか? 性衝動くらいはあるだろうに」
「道徳的なはたらきとして云うなれば、“野性児”に必要な事柄は、栄養と教育だ。わたしの課題に、生理的欲求は含まれない」
「そういうもんか?」
 三船はいまいち的を射られず、「う~む」とうなった。バージルとは長い付き合いだが、まったく感情が読めない。どちらかといえば感受性が豊かな三船は、エイジの現状が気の毒に思えた。


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