51 / 150
愛 玩 人 体〔51〕
しおりを挟む〔AZについて。中心部愛玩人体計画における価値体系の考察と中間報告。〕
〔自己矛盾にも係わらず、AZは避けられない事物に尽くす能力を持ち、その身を捧げている。目立った問題行動はなく、管理者であるバージル▪F▪セルジュに対して、忠誠心さえ感じるばかりである。〕
〔これまで排他的な分野であった、デリバリーヘルスボーイの必要性と連続性は、今後も慎重に議論されるべきであり、対象の精神状態や人格の分裂は普遍的な要素である。しかしそれが、対象の健康さを意味することも忘れてはならない。〕
〔自分を使いわけて、状況に適応性を示す個体は、思考能力に統一性を持たない。故に、病的な場面に陥った場合の介助は、必須事項である。いわゆる、アイデンティティの安定をサポートし、自我の崩壊を未然に防ぐ対策を徹底することが重要である。〕
〔結論を急ぐことはできない。社会には善良な利用者だけでなく、悪質な行動を考える者が存在するため、我々運営側が、まず以て、外的な障害を排除しなければならない。尚、比較対照のない実証実験につき、例外は認められない。〕
エイジと三船が居間へ戻るまでの間、バージルは自身のレポート内容に目を通していた。これまでのエイジの動向を客観視することが重要であり、いっさいの私情は禁物である。バージルの役割は、エイジの保護ではなく活用にある。愛玩人体の社会進出が最終目的であり、医局の計画は決定事項だった。社会心理学的諸研究の日々は、あと1年近く残されている。
居間へ引き返してきた三船は、親指を立てると、トイレのあるほうを示して云う。
「AZなら大事はなさそうだ。至って健康だな、ありゃ」
腹部を触られて勃起したエイジは、後始末をしてから戻ってくる。
「お待たせ。腹が減って死にそうだ」
エイジはバージルの正面へ座ると、テーブルに並ぶビーフサンドを手にして、ひと口かじった。少年の隣に腰をおろした三船は、ひとり分のチキンスープをこぼしてしまったので、自分用に取り分けた皿をエイジに勧めた。
「オレはいいよ。ショウゴが食えって。楽しみにしてたンだろ?」
「なら、半分ずつ食べるとしよう」
三船の提案を聞き容れて、エイジは先にスープを飲んだ。残りを三船が食べる。バージルはふたりのやりとりをながめ、密かに微笑した。
「……ショウゴ、痛くないか?」
「うん? なにがだ?」
「さっき、殴ったトコ、……その、ごめん」
エイジが素直に謝ると、三船から頭を撫でられた。
「おまえって、やっぱりかわいいな」
「ああッ、もう! また云ったな!!」
「本当のことだから、仕方ないだろう」
「うるさい、黙ってこれでも食え!」
エイジは食べかけのビーフサンドを、三船の口の中へ押し込んだ。
「わかった、わかった。危ないから、もう少し離れろAZ」
「なにが危ないンだ?」
「うっかり、手を出しそうになるから」
頭の回転が鈍いエイジは、三船の下心を見抜けない。ストリートライフ者のエアルを抱いたことで、三船はエイジに対して欲情が可能であり、その気になれば力ずくで性交できた。むろん、好意がなければそのような発想には至らない。三船は、エイジの存在を好ましく捉えていた。勘の鋭いバージルは、三船に芽生えた感情に気づいた。
3人で食事を終えた後、エイジは満腹中枢が満たされて睡魔に襲われた。絨毯の上に寝転がると、そのまま熟睡した。台所に立ち食器洗いをしていたバージルは、三船に目配せをした。それを承知して、三船はエイジの躰を抱きあげると、寝室へ運んだ。
居間でバージルとふたりきりになった三船は、いちど深いため息を吐いた。躰を使って得た情報を伝えるため、再び腰をおろすと、バージルは、マグカップを2個用意して珈琲を淹れた。時刻は午後3時を過ぎている。
「ふう。……なんかよ、AZを見ていると、助けてやりたくなるもんだな」
三船はバージルの手からマグカップを受け取り、自嘲気味に笑う。
「それにしても、おまえ。よくもこんな仕事をやれているな。おれなんか、たったいちどAZを客に引き渡しただけで、頭がおかしくなったってのによ」
「キミは真面目な性格だからね。わたしは元から気が狂れている人間だから、多少のことでは挫けない性分なのさ」
「おまえは、AZを抱いてみたりしないのか? 性衝動くらいはあるだろうに」
「道徳的なはたらきとして云うなれば、“野性児”に必要な事柄は、栄養と教育だ。わたしの課題に、生理的欲求は含まれない」
「そういうもんか?」
三船はいまいち的を射られず、「う~む」と唸った。バージルとは長い付き合いだが、まったく感情が読めない。どちらかといえば感受性が豊かな三船は、エイジの現状が気の毒に思えた。
+ continue +
1
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる